

今でも
あの匂いを嗅ぐと
十五歳に引き戻される
あの日の夏が
まだそこにある
十五の夏の少し前
兄が部活を引退した
毎日通った体育館を離れ
時間ができた夏だった
傷だらけの黄色い板
手渡された帰り道
まだ乗れもしないのに
少しだけ誇らしかった
外はまだ薄暗くて
眠そうな空の下
その板を抱えながら
家の前で待っていた
やがて車がやって来て
板を積み込み走り出す
何を話したか忘れたけど
眠かったことは覚えてる
窓の向こうに海が見えた
ばあちゃん家のあの海が
いつもと違う顔をして
朝日に光っていた
砂浜を歩くサーファーたち
焼けた肌とボードの列
同じ海のはずなのに
知らない世界に見えていた
ワックスを塗る手の先で
甘い匂いが広がった
「これ何なん?」
みんな笑っていた
甘い匂いが風に残る
夏がそこで始まっていた
あの日の朝の砂浜に
置き去りにした十五歳
今でもふいに思い出す
車の窓と海の色
あの匂いを嗅ぐたびに
僕はあの日へ帰っていく
腹ばいになって海を見る
手をバタバタ動かした
立つ練習もやってみたら
意外と出来てしまった
「まだ立たんでええぞ」
後ろから声が聞こえる
その言葉を聞いた瞬間
なぜだか立ってみたくなった
白い波が近づいてくる
後ろで誰か叫んでる
押された瞬間
景色だけが前へ飛んだ
波の上に立っていた
気づけば立っていた
風が顔を抜けていく
海が笑っていた
ほんの数秒だったけど
忘れられない時間だった
昨日までの僕じゃないと
そんな気がしていた
波が近づいてくる
後ろで誰か叫んでる
胸が少し高鳴った
海だけを見ていた
「まだ立たんでええぞ」
その声が聞こえたけど
なぜだか
立ってみたくなった
白い波が来る
あの日の最初の一歩が
今の僕へ続いていた
風も光も海も全部
あの日から続いていた
兄と見たあの日の海が
今も胸のどこかにある
十五歳の最初の波は
まだ消えずに揺れている
同級生の知らない景色を
僕だけ先に見た気がした
世界は広いと初めて知った
あの朝の波の上で
国府の浜の朝焼けも
傷だらけの黄色い板も
白い波の音も
忘れたことなんてない
すべては
ここから始まった
今でも
あの匂いを嗅ぐと
十五歳に引き戻される
夏の匂いだった
ワックスの匂い。
始まりの夏だった。
また今年も
夏が始まった。
あの香り。
十五歳の夏と
同じだ。
今でも
あの匂いを嗅ぐと
十五歳に引き戻される。
- 作詞者
爆咲K
- 作曲者
爆咲K
- プロデューサー
爆咲K
- プログラミング
爆咲K

爆咲K の“15歳、兄に連れられて海に行った日”を
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15歳、兄に連れられて海に行った日
爆咲K
プロローグに続く、Still In The Ocean本編の第1話。五歳の夏、兄に連れられて初めて海へ行った日の記憶を描いた一曲。ワックスの匂い、朝焼けの海、そして最初の一本の波。
すべての始まりとなった、あの日の物語。
アーティスト情報
爆咲K
人生の軌跡をコンテンツとして記録するクリエイター。 15歳で出会った海、17歳で追いかけた風、15年以上を過ごしたアメリカの日々。そして55歳で再び戻った波。 実体験をもとにしたノンフィクション作品『まだ海の中にいる』を軸に、文章、朗読、音楽を通して人生の旅を表現している。
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