歌詞

「たまねぎ」 ― SMIRE

キッチンの片隅、まな板の上で光るたまねぎ。
それを切るたびに滲む涙は、いつのまにか心の奥にある痛みと重なっていました。
この楽曲「たまねぎ」は、そんな“泣くことを許せなかった人”が、
やさしさに触れて初めて涙を流せた瞬間を描いた物語です。

SMIREの透明な声が、この歌を通して静かに問いかけます。
「あなたは最後に、心から泣いたのはいつですか？」
強がりの裏で、本当は誰よりも優しかったあなたへ――。
この歌は、そんなあなたのために生まれました。

最初の一音から感じるのは、まるで冷たい夜に差し込む灯のような温度。
ピアノの旋律が、ひとつひとつの涙をすくい上げるように流れ、
アコースティックギターがそっと寄り添う。
やがてストリングスが包み込むように広がり、
SMIREの声が空気そのものを震わせながら、
心の奥に閉じ込めた感情をそっと解き放っていきます。

この歌に登場する“たまねぎ”は、ただの食材ではありません。
涙を誤魔化すための小さな盾であり、
それでも泣いてしまうほどの悲しみを抱いた人の象徴。
そしてその涙を「もう切らなくていいんだよ」と包み込む存在が現れることで、
人は初めて、自分の弱さを受け入れる勇気を得ていきます。

誰かに“泣いてもいいよ”と許された瞬間、
涙は悲しみではなく、感謝やぬくもりに変わっていく。
SMIREの歌声は、その変化を丁寧に、
まるでひとつの映画のように描いていきます。

「たまねぎを切るたびに、心の奥がしみていた
　本当は泣きたかっただけなのに
　誰にも見せられなかった涙」

このフレーズを聴いた瞬間、多くの人が自分の記憶のどこかを思い出すでしょう。
強がっていた日、無理に笑ってしまった夜。
「泣いたら負け」「弱い自分は見せちゃいけない」
そんな思い込みを優しく溶かしてくれるのが、この歌です。

SMIREは、ただ歌っているだけではありません。
彼女の声そのものが“抱擁”のように聴こえる。
少し息を含んだ柔らかなトーン、
涙のようにかすかに震えるビブラート、
そして、最後にほっと微笑むような響き。
そのすべてが「あなたの涙を責めない」と語りかけてくるのです。

曲の後半で「たまねぎを切らなくても、涙はもうこわくない」と歌うとき、
その言葉には、痛みを知る人だけが持つ深い優しさが宿っています。