

午前中はお散歩の時間
大きなカートに園児を乗せて 連れ出すのだ
コースはいくつかあるが
車の通らない道や公園を選ぶ
新緑の木々の間から
春の日差しが差し込み
楽しそうにカートのふちにつかまる
子どもたちは笑顔を見せる
しかし 私は重いカートを押し
安全に気配りをするだけで
楽しむゆとりなどない
「電動カートかと思っていました」と言うと
「そんな便利なもの世の中にはないのよ」と
先輩に笑われた
カタログには
載っていた気がしたのだが……
にぎやかな保育園にも
少しの間だけ静寂が訪れる
午後のお昼寝の時間だ
子どもの安全のため 体動センサーをつけ
異常の早期発見に努める
以前 先輩保育士が言っていた
「小さな子どもの不幸な事故は 周囲の責任だ」と
今 この子たちの命を私が預かっているのだ
そう思うと少し怖くなってしまうが
やるべき作業は山ほどある
保護者へ向けた連絡帳を
一人ひとり書いていく
しかし なかなか言葉が思いつかない
まだ学生気分が抜けないのか
文体を考えては手が止まってしまう
すると 先輩保育士が声をかけてくれた
「なんでもいいのよ 素直に見たことを書いてあげて
でもね たった一つだけ
書いてはいけないことがあるの
たとえば おむつが外れて
初めてトイレができたとしても
それは書かないでおくの
親御さんより先に 初めての成長の
瞬間を見てしまったとしても
伝えてはいけないのよ」
驚いた こんなに優しい世界があったことに
この優しさも 長い時間をかけて
先輩たちが築いてきたものなのだろう
親の喜びになり 子どもは親の笑顔から
愛情を受け取る 小さな気配りが
子どもの心の中へ温かく深く 深く
染み渡っていくのだと思う
この仕事に就いて本当によかったと
心から 思えた瞬間であった
- 作詞者
m.ku
- 作曲者
m.ku
- プロデューサー
m.ku-3
- ギター
m.ku

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前日譚 その4 保育士たかはし 前を向いて歩きだす
m.ku
当方作品ヒロイン中学校教員「たかはし先生」の前日譚その4です
挫折から立ち直った保育士たかはしは、前を向いて歩きだす
7部作の4です。彼女の前日譚を理解する第四章です。
(7章計31分のドラマです。)
なお、四年生大学を卒業後、保育士の国家試験(学科・実技)に合格すれば保育士になることができます。取得までは一年かかります。



