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ある日、いつものように、晩ご飯を食べた後、明日の朝食べるパンを焼いていた。
 ウチの畑で穫れた小麦を製粉して、自作のビールを酵母にしてパン生地をこねて、12時間くらい発酵させて、一時間弱焼く。
10月に小麦の種を蒔き、冬を雪の下で越えて7月に収穫。乾燥して選別して…という時間も、「ある日の一食のパンを焼く」時間の中に入っている。
 発酵に失敗して膨らまなかったり、焦がしたり、生焼けなど、最後の最後に失敗してしまった時は、ほんと悲しい… 
 失敗を忘れないうちにめげずに悔しさも混ぜこねてまた焼いて、美味く焼ければ、この世に、人生に、こんなに美味いモノがあることに何度でも何度でも感動する。人間が「レギュラーかハイオクか」しか選べない構造でなくて本当によかった。

 オーブンの中のパンが焼けるのを待ちながらギターを弾いていた。
ふと、なんだかいい感じのフレーズが鳴った。そこにとりあえずの言葉をのせてみる。   
 ~夕食の後 満たされたお腹で 明日のパンを焼く~
 今、自分がいるこの情景を描く。いつも曲はこうやって生まれる。考えてつくるようなものではない。今、自分の周りを漂っているメロディーと言葉を座ったまま手の届く範囲でつかまえてノートに貼り付けていく。
 考えなくてもいいが、今、つかまえないと明日の朝には何処か遠くへ去ってしまうもの。40分後パンが焼けてからでも遅い。今のメロディーは今しか流れない。
 ノートを広げた同じテーブルの上には、読み途中の今朝の新聞。ロシアのウクライナへの攻撃による惨事、イスラエルのパレスチナへの攻撃による惨事、ミャンマー、シリアの内戦… そこで理不尽に家を壊され、死んでゆく人たち、そして悲しみと怒りの中で今日は何とか生き残った人たちがいる壊された街の状況。遠い国のいつかの話じゃない。東京から飛行機に乗れば数時間の、この空の続きにある所の、今、自分がパンを焼いているこの時間に起きていること。
 何故だろう… たぶん、大統領と呼ばれる人や、指導者と呼ばれる人が、愛のこもった「美味しい」モノ食べていないんだと思う。そして「美味しい」食事を共にしてくれる愛しい友達がいないのだと思う。
 「美味しい」を分かっていたら人をむやみに傷つけられないはず。自然をむやみに破壊できないはず。そう思って僕は、ちっぽけな農夫として美味しい素材を実らせて出逢った人の台所に届けたいと思ってこれを生業としている。

みんな、ただ「美味しい」ごはんを暖かい部屋で今日も食べたいだけなのに
       パンが焼ける前に、新しい歌ができた。
「幸せとは…豊かさとは…」。考えるほどのことじゃない。僕にとっては「美味しい」と感じられる日のこと。誰もに「美味しい」食卓のある社会が「豊さ」で、そのことを誰もが理解したうえで社会構築される世界が「平和」。

Artist Profile

Back Valley Records