虫喰い算大会のジャケット写真

歌詞

社風は無風

日陰三〇

今日も待ってる いつも待っている

誰かくるのを待ってる

今日も待ってる いつも待っている

戸が開かれるを待っている

その気が強い派遣社員が

多くの中間管理職たちの

事なかれ主義に耐えられなくなるのには

さほど時間はかからなかった

「お前らでは点で話にならない」と派遣社員は

誰も近づこうとしなかったその部屋に続く通路を

汚い仕事着でズカズカ進んで行く

自分は止めたんだ

と言いたいが為のポーズだろう

管理職たちは派遣社員の周りで

やめろと言ったり

軽く手を出そうとするだけで

本気で止めようとしている者は

どうやらいないようだった

「保身と見栄をはることしかできない

量産型腑抜けどもめが」

派遣社員は他部署から持ち出したハンマーで

その扉をぶち破った

今日も待ってるいつも待っている

誰かが来るのを待っている

今日も待ってるいつも待っている

戸が開かれるのを待っている

社員らがその部屋で最初に見たものは

位置的に考えてかつて高価な花であった

と推測されるものが枯れ落ち水分を失って

砂と化したものと それを隠す様に積もる

都会の汚れた薄雪のような埃だったが

そのむこうの椅子から机に渡ってかかる

もっと大きな流木に似た物にも

同じように埃が積もっていることに

気付いた1名が卒倒したことで

派遣社員を止めるフリをするものは誰もいなくなった

というより現実を直視しない事を

正当化する為の良い理由に食いついた

皆こぞって倒れた者の介抱をしだした

介抱するフリをしだした

こんな状況でも放おっておかれるとは

何と哀れなと派遣社員は思ったが

すぐに振る舞いによってはこれは

自業自得なのかもしれないなと思い直した

否そういうフリをしていた

派遣社員も正気を保っていることで精一杯だった

いや正気でなかったからこのような発想に

至ったのかもしれない おそらく部屋に新しい風が

吹いたからだろう 机に積もる埃の下の

何かだったものが溜息をもらしたように見えた

それが安堵のためか失望のためかは

派遣社員にはわからなかったが

先に述べた通り派遣社員もその様子なので

それは錯覚か何かだろう

それはもう動く筈がないのだから

倒れた社員が目を覚ました頃

部屋に吹き始めた新しい風が弱まった

風の正体はこの部屋の片隅に置かれた

空気清浄機が起こすそれだった

いつの間にか部屋の埃っぽさと異臭は消え

管理職達は何事も無かった様に部屋から出てゆく

我に返った派遣社員が例の机の上に目をやっても

そこにはぽっかりと口を開け虚ろに上を向く

空の花瓶が佇んでいるだけだった

時が止まった様なこの部屋で

唯一動き続ける空気清浄機を

派遣社員は車に轢かれ瀕死になっている

動物を見る様な目で眺めた

派遣社員が動物好きであるか否かは

ここではあえて言及しない

今日も待ってる いつも待っている

誰かくるのを待ってる

今日も待ってる いつも待っている

戸が開かれるを待っている

  • 作詞

    日陰三〇

  • 作曲

    日陰三〇

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作詞作曲歌演奏、鳴かず飛ばずの音楽屋こと日陰三〇による自作自演集。

アーティスト情報

日陰空想化成

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