

ちょうど通りかかりに
川があって
橋の欄干から
かれらは覗き込んでいた
亀が浮かんでいる
水草にすがりつくようにして
首ちぢこませ
しっぽをたらりん
甲羅ごつごつ苔むし
かれらは目をこらすけれど
透明度ゼロの水面はまるで
まるで静物画のように
時を止めていて
コンクリートの黒ずんだ護岸は
不自然なまっすぐさで
伸びている どこまでも
水面から突き出た
自転車のハンドルに
つがいのトンボがとまって
かれらは ようやっと
ようやっと 時を取り戻した
これはいったい なんなんだ
かれらは肩寄せ ささやきあう
流れのない川なんて あるのか
どこかおれたちに
似ていないか
どこへ行く
どこに向かっている
見通しはいいはずなのに
それがわからない
亀が浮かんでいる
水草はそよとも揺るがず
おれたちはどこにいる
橋の上だ 世界の中だ
その世界はどこにある
おれたちの世界はどこにある?
やがてかれらは
真理に たどり着いた
世界はごつごつ苔むした
亀の甲羅に
載っかっていることに気づき
かれらは ようやっと
ようやっと
見失っていた自分を
取り戻した
川に浮かぶ亀の甲羅に
世界が載っかっていて
かれらは そこの住人
どこへ行く
どこに向かっている
見通しはいいはずなのに
それがわからない
ちょうど通りかかりに
川があって
橋の欄干から
かれらは覗き込んでいた
亀が浮かんでいる
かれらの世界を
その甲羅に載せて
- 作詞者
玄月
- 作曲者
玄月

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- ⚫︎
亀が浮かんでいる
玄月
- 2
晴れた日は好きじゃない
玄月
- 3
転倒
玄月
- 4
好きと言って
玄月
- 5
あのころ信じていた神様
玄月
- 6
じっとしない世界で
玄月
- 7
夏が終わったら働くし
玄月
- 8
幸せのかたち
玄月
- 9
ただの一度も恋愛というものができなかった
玄月
- 10
自由
玄月
- 11
恋詩
玄月
11のオリジナル曲をひとりで録音したアルバムです。
アルバムタイトル曲の「亀が浮かんでいる」は、生まれ育った土地の原風景、自転車が捨てられ亀が浮かんでいた運河がモチーフになっています。
小説であれ音楽であれ、「記憶」を表現する作業において、つねに足手まといになるのは「いきすぎた美化」です。ノスタルジーからは、それらをうまく排除しなければなりません。
アーティスト情報
玄月
玄月プロフィール 芥川賞作家・大阪芸術大学教授。心斎橋「文学バー・リズール」店主。 2021年より音楽活動を開始。2023年、フルアルバム「亀が浮かんでいる」を発表。 2024年7月、ミニアルバム「とおる追いかけろ」をリリース。 2025年4月、シングル「わたしはユリコ」をリリース。
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