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ここにあるのは、親子以上の年齢差を隔てた二人の日本の作曲家による、師弟愛に満ちたコラボレーションなどでは、まったくない。
かつてコンピューター音楽の最先端で苦闘しながら、ある明晰な倫理的理由によって、以後の長い間、音とデジタルな演算との結び付きを、自らに厳しく禁じてきた高橋悠治は、21世紀に入って突然、ラップトップを手にした。もちろん、それが嘗てコンピューターを封印したのと同じ強度の倫理的理由によるものであることは疑いない。
この「転回=回帰」は、音楽史上の「事件」であるとさえ言える。
一方、若い渋谷慶一郎は、フォーマルでアカデミックな音楽領域から出発しながら、おそらく同世代の誰よりも鋭敏かつ真摯であったがゆえに、あっけなく制度から逸脱してゆき、現在のポスト・テクノロジカル状況における「作曲家」としての在り方自体を問い直す、という困難な試行は、ATAKの始動と slipped diskとしての活動にまで至った。
多くの者にとっては今なお居心地が良いのだろうアカデミズムの「閉域」から身を引き剥がすにあたって、かつて他ならぬ「逸脱」の先達たる高橋の薫陶を得たこともある渋谷は、しかしこの作品においては、偉大な年長者への畏敬の念に囚われることなく、その強烈きわまる「問題提起としての電子音響」を高橋へと真っ向から突きつけている。
そして対する高橋も、渋谷のラジカルな挑発にベテランらしく鷹揚に応じるどころか、凶暴な牙を剥き出しにして、筋金入りの制度破壊者たる正体を露わにしてみせるのだ。
両者の闘いは、驚くべきスリリングなものだ。だがむろん、彼らは互いに戦っているのではない。彼らは同じものに対して闘おうとしているのだ。それが何であるのかを敢えて言葉にするのは野暮というものだろう。
佐々木 敦(headz/fader)
東京藝術大学作曲科卒業、2002年に音楽レーベル ATAKを設立。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽 、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたる。 2012年、初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表。同作品はパリ・シャトレ座公演を皮切りに世界中で公演が行なわれている。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、UAEで公演を行なう。2019年9月にはアルス・エレクトロニカ(オーストリア)で仏教音楽・声明とエレクトロ二クスによる作品『Heavy Requiem』を披露。 2020年9月には草彅剛主演映画『ミッドナイトスワン』の音楽を担当。本作で第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞、映画音楽賞をダブル受賞。 2021年8月、東京・新国立劇場にて新作オペラ作品『Super Angels スーパーエンジェル』を世界初演。2022年3月にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、UAE現地のオーケストラのコラボレーションによる新作アンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。人間とテクノロジー、生と死の境界領域を作品を通して問いかけている。 2022年4月、映画「xxxHOLiC」(蜷川実花監督)の音楽を担当。サウンドアーティストevala、仏教音楽家の藤原栄善とのコラボレーションを含む全二十一曲のサウンドトラックを収録した最新電子音楽アルバム『ATAK025 xxxHOLiC』を発表。 http://atak.jp
12 years after his Kageri, Takahashi’s new full-length album is gorgeous, comprehensive, contentious and innovative. It includes his masterpieces from the past: TIME (1963), a rare musique concrete (electro music edited on tape), which was scored for animation by Hiroshi Manabe, Fleider in Die Sonne (1989), computer-generated music over Takahashi’s reading of text by Kafka, kumo-rinzetsu 260795 (1995), and live music performed in 2000 (gs-porttait is highly recommended). 16 years ago when I was a high school student, I listened to Fleider in Die Sonne (1989) at a concert hall in Yuraku-cho. I remember Yuji’s performance so well. A lot of questions came up within my mind, “Is that music?” “Text?” “Or neither?” “What is it then?” and ended up with a tremendous impression, “Who is he, what is Yuji Takahashi?” Yuji’s computer-based works are remarkably fine in recent years. I was telling my friends that someone should release the CD, and tried to introduce some labels in Europe. And, this year when I listened to gs-portrait (2005), I decided to release the CD from my own label, ATAK. There was a circle of time. I was happy to find a link in between his old and new works. As we discussed about the contents of the album, we arranged to include his maiden-work TIME (1963) because it should be a surprise that Yuji was making the same music 42 years ago. I am pleased to release this CD from my label and believe that this is one of his best albums. It will sound fresh even after 42 years. Keiichiro Shibuya (ATAK)
ATAK