27年前の私に送る秋田の詩たち。のジャケット写真

歌詞

空っぽの青い犬小屋

鈴木 諭

梨の出荷先で

父親が貰ってきた

一匹の雑種の子犬

茶色い毛色の

可愛い子犬

部落の運動会の日

軽トラックに乗ってやって来た

公民館の砂利道

何もない原っぱ

友達と妹と一緒に

子犬と走り回った

新しい家族が増えた

婆さんがまた

チロって名付けた

前に死んだチロとは違う

前に死んだチロとは違う

秋田犬の血も入ってない

ただの雑種

でも名前はチロだ

僕の成長と共に

チロも成長した

墓所の前を散歩した

隣の家の玄関の柱に紐を絡めて

隣の婆さんにごしゃかれた

犬の川の近くまでも散歩した

だってチロが歩くから

行きたく無いけど歩くから

中学生になり

高校生になり

大学生になり

いつしかチロと遊ぶこともなくなった

元気に走り回っていたチロが

ヨロヨロ歩くようになった

虚ろな目をして

犬小屋からこっちを見ていた

シロも最初のチロも住んだ

青い屋根の犬小屋で

餌の残飯も残ってる

食い散らかした後の米と汁と

そして鳥の骨

田舎の部落だ

文句を言う人もいない

父さんが散歩を面倒くさがるようになり

紐を外して勝手に自分で

歩き回らせるようになった

ヨロヨロとチロは毎日散歩した

ヨロヨロとチロは毎日散歩した

そして突然帰ってこなくなった

一日経っても

一週間経っても

一ヶ月経っても

父さんは言った

「どこかの家で拾って飼ってくれてる筈だ」

どこかで聞いたことがある

この言葉はどこかで聞いたことがある

遠い昔

あの青い橋の上で

あの青い橋の上で

ある日同じ部落の婆さんがやって来た

「かさん、かさん、いだすか

田んぼの中で死んでら犬こいで騒ぎなってらども

すものえの犬こでねべがって話なってらでゃ」

痩せこけたチロが

田んぼの中で倒れて死んでいた

痩せこけたチロが

田んぼの中で倒れて死んでいた

家の婆さんと妹が引き取りに行った

僕はその現場も

埋葬も見なかった

僕は見れなかった

僕は見れなかった

見るべきではないから

何かが壊れるから

僕の家にはそれから犬がいない

僕の家にはそれから犬がいない

僕がこれから犬を飼うことも無い

僕がこれから犬を飼うことも無い

きっと何か起こるから

きっと何か起こるから

冬が近い

夕時になり縁側の戸が

少しずつ揺れ始める

隣の家の婆さんが

また庭で痰を吐いている

友達の母さんが

いつものように

ゴールデンレトリバーの散歩をしている

電線の上に止まったカラスが

矢鱈とわめき

その声が鈍色の空に溶けていった

空っぽの青い犬小屋

空っぽの青い犬小屋

空っぽの青い犬小屋

  • 作詞

    鈴木 諭

  • 作曲

    鈴木 諭

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アーティスト情報

哥処 墨林庵

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