歌詞

スーツ姿の男女がいた。

スーツ姿の女は、パンとバターをセットすると自動で塗ってくれるロボットや、コンセントに挿して使う冷暖房付の服など、役に立たない発明ばかりしていた。

スーツ姿の男は、靴下が濡れないように靴の上に履く靴上や、睡眠効果をなくした睡眠薬など、役に立たない発明ばかり買い取っていた。

役に立たないものを発明するスーツ姿の女と、役に立たない発明を買い取るスーツ姿の男。

この二人は長いこと発明を売買する関係だったが、あるときお互いの発明品を組み合わせることで、何か新しいものが作れないかと考えはじめた。

無線の糸電話や、常に乾かし続ける服など、凄いんだか凄くないんだかよくわからないものばかり作っているが、たまに液体からほ乳類を作り出したり、指定した時間だけ相手を気絶させる薬を発明したりするので、最近は軍事産業からも医療産業からも多額の研究費を貰うようになっていた。

この二人の発明で最も利益を生んでるのは、海水から真水を作る機械で使う逆浸透膜というフィルターを応用して作った、放射能汚染水から99.9999%放射性物質を取り除く濾過装置だ。

この発明で一般的な生涯年収と同じくらいの額が毎月手元に来るようになった二人だが、当初は海水から真水を作る機械から塩を取り出す機械を作ろうとしただけだった。

二人はどんなときも発明を続けた。

背中の脱毛が簡単に出来る全身タイツ型の脱毛器具や、脳の錯覚を引き起こす薬など、とにかく沢山の発明を生み出していた。

ある日、スーツ姿の女の元に、スーツ姿の男が新たな発明品を持ってやってきた。

今回買い取ってきた発明は、音が聞こえる耳栓なんだそうだ。見た目は何の変哲もない耳栓だったが、要するに耳栓をしたまま骨伝導の技術を応用して音を聞くことができる品らしい。

今度の発明は成功する！　と、革新的な閃きを確信したスーツ姿の女は、すぐさま研究に取りかかった。

(研究開発中)

時は流れ、とある場所での出来事。

白衣の男性が差し出した耳栓のような器具を、小さな女の子が耳に差し込んだ。

続いて白衣の男性は、水色の容器に入った液体を飲むよう促した。

小さな女の子は、とても不安そうな表情をしたが、強く目を閉じて一気に飲み干した。

とても苦い薬のため、最初はとても苦そうな顔をしたが、次第に驚きの表情にかわり、最後には泣き出してしまった。

小さな女の子は、泣きながらたどたどしく話していたが、だんだん聞き取りやすい話し方に変わっていった。

水色の容器に入った液体は、脳の錯覚を引き起こす薬で、一回の服用で8時間くらい特定の電気信号が脳に流れるようになる。

この電気信号の作用で、鼓膜の代わりに骨伝導の振動で鳴らしてる耳栓の音が聞き取れるようになるらしく、先天的に耳が不自由な人でも聴力が得られるようになるため、今世紀最大の発明と絶賛されていた。

スーツ姿の女は脳の錯覚による作用で無線の糸電話を小型化出来ないか考えていて、スーツ姿の男は耳栓をしたと偽って話を盗み聞きする装置を考えていたので、また発明に失敗したとため息をついた。

今日も二人は、画面の映らないテレビや、エコノミー症候群にならない飴などを発明して、失敗した発明を評価されて、成功した発明を評価されずにいた。