Lyric

開廷

まず理由から述べる

被告人は前へ

被告は生きも死にもできなかった

死に等しい絶望があった

それは悲しい過去からではなく

塞がった未来から生まれた

絶望を背負って生きた でも

被害者にそれをぶつけてしまった

被告は臆病で 寂しがり屋で

甘えん坊な子どもだった

主文

被告人を死刑に処する

上告が棄却され 刑が確定する

国選弁護士は役割を終える

被告は死の報いを受ける

刑務官は仕事だからと業を背負う

教誨師様

教えて言葉とは何でしょう

罪も 罰も 祈りも言葉でつくられ

ときに苦しみ 救われ

死が怖い 殺さないで ゆるしてと

確定囚が怯え 泣くとき

傍聴席で テレビの前で

どっと大爆笑が起こった

殺し 殺す 殺すとき 殺せば 殺せ

ジョン・コーフィは最後まで目を閉じなかった

罪人なる弱きわれらのために

いまも最後のときもどうかともに祈りを

深く深く貫通するテミスの剣

「善人」が「悪人」を「ひと」のカテゴリから外す

そうして誰もが殺人鬼になれる 容易く

何か言い残したいことは？

皆様 ご迷惑おかけしました と述べた

刑務官先生

送ってくれてありがとう さようなら

ボタンを押す三人の執行人

単眼に似た 表示灯は緑

床が開き ロープが張る

折れる首 響く パーン！

大きく振れ 垂直に止まる彼は

絶望から開放されたのか？

これで 本当に

私たちの絶望は 和らぐのか？

閉廷