

保育園に同じ日はない
ある日 子ども特有の
伝染性疾患が 顔をのぞかせた
「せんせい 手のひらに水たまりができたの」
その言葉を聞いた瞬間
私の背中に 冷や汗がつたった
狭い室内だ いくら気をつけていても
あっという間に 広がってしまう
すぐに看護師へ 処置を引き継ぎ
親御さんへ連絡を取った
様子を見に医務室へ行くと
その子は心細そうに泣いていた
私の胸に 心配を超えた
「どうにかしてあげたい」
という強い感情が込み上げてくる
この感情は何だろう
子どもを思う親の気持ちと
同じなのだろうか
心の奥がぎゅっと苦しくなる
「大丈夫だよ」
そう 声をかけて部屋を後にした
やはり教科書はただのマニュアルだ
この苦しい心の揺らぎまでは 書いていない
教科書に書いてあるのは、
あくまで冷静で適切な対応だけ
感情を乗せてしまった私が
未熟で 悪いのだろうか
時は流れ 季節は 秋になった
気がつけば
いつも私のそばにいる 女の子がいた
他の先生のところには行かないのだ
しかし シフトで私が休みの日は
別の先生に くっついているらしい
微笑ましい「甘えん坊さん」だ
また 少しおませな口調の
別の女の子からは 突然こう言われた
「先生 二日前スーパーでお買い物していたし
タンメンをひとりで食べてたでしょ
先生のことは 何でも知っているんだからね」
小さいくせに可愛い「おませ」さんだ
園児たちの中に 明確な「個性」が見えてきた
日々の忙しさに 目標を見落としていたのだ
人間として 成長するもっと手前
その「個性の発現を見つめる」という
私がこの道を選んだ 目標を
私は 副園長に その疑問をぶつけてみた
「わからないわ みんなここに来たときは
赤ちゃんだったのにね 友達と遊んで
喧嘩して 長い日を 一緒に歩む中で
小さくても みんなで 個性を磨き
育て合っているのよ 誰かが 植え付けるものじゃない
自然と学んでいくの だから多様性を持って育っていく
私たちが教えるのは ただ一つ『思いやり』よ」
私が求めていた 答えは
もう私の心の中に あったのだ
子どもたちに 素直に
真っすぐに 接すれば
彼らは 鏡のように
その心を 返してくれる
かつて あの踏切で
笑顔で 私を見つめていた
長い髪の女の子 彼女もやはり
澄んだ目をしていた
私があの日見た眼の輝きは
彼女が持っていた「心の鏡」
そのものだったのだ
副園長は さらに言葉を続けた
「子どもだって 一生懸命に生きているわ
もし この大切な時期に
人を思いやる気持ちを 知らずに育ってしまったら
その子は誰かを 傷つけることに
痛みを心に 感じなくなってしまう かもしれない
だからこそ 今私たちが『思いやり』の
土台を育てて あげなきゃいけないのよ」
副園長は 私の目をじっと見据えた
「たかはし先生 私の言っていること分かりますか」
「はい、分かりました」
私は 真っすぐにそう答えた
- 作詞者
m.ku
- 作曲者
m.ku
- プロデューサー
m.ku-3
- ギター
m.ku

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前日譚 その5 保育士たかはしの新たなる苦悩そして気づき
m.ku
当方作品ヒロイン中学校教員「たかはし先生」の前日譚その5です
忙しさに翻弄される毎日、子供の一人が病気になる。
親でもないのにとても不安になった。この気持ちは何なのだろう
そして、保育士たかはしは、保育士になった目的について思い出す
7部作の5です。彼女の前日譚を理解する第五章です。
(7章計31分のドラマです。)
なお、四年生大学を卒業後、保育士の国家試験(学科・実技)に合格すれば保育士になることができます。取得までは一年かかります。



