歌詞

楽しげに歌う父娘（おやこ）を見つめながら

感じる嬉しさと淋しさと羨ましさと

私にはそんな思い出はなかった

いつもそこには見えない壁があった

ふと蘇ってきたのは カセットテープの記憶

父は幼い私に 童謡（うた）を教えてくれた

擦り切れたテープには父娘の歌声が

私のお気に入りは「ふるさと」

ないと思っていたものは そこにたしかにあった

私がそれを見ようとしなかっただけ

無口で頑固で近寄りがたかった

老いた父は病で自由を失っていく

もう会えないかもと覚悟した日

父の元で「ふるさと」を歌うことを決めた

静まり返った病室に 生気のない命が一つ

「ふるさと」を歌い 思いをまっすぐ届ける

顔をゆがめてむせび泣く父の姿

心の針が大きく揺れていた

あると思っていた壁は そこにはもうなかった

分かり合えないと 私が思い込んでいただけ

偶然が重なり 家族が父のもとに集う

消えゆく命の前で「ふるさと」が木霊する

言葉はなくとも 私たちは繋がっていた

そこにたしかに故郷はあった

家族を愛した不器用な男が旅立った

自らの存在で 家族を一つにして

人が死ぬということを見せて 逝った

それは父からの最後のギフト

私を包み込む愛は そこにはじめからあった

私がそれを愛とは気づかなかっただけ

私たちはひとつのところから

行っておいでと そっと背中を押されて来た

いつしか故郷は 私の心に宿っていた

愛された記憶と触れ合ったぬくもりが

命の鼓動に刻まれる

いつしか故郷は 私の心に広がっていく

そこは静寂な深淵に佇む

懐かしくも温かい場所

目を閉じれば いつだってここにある

それを人は故郷と呼ぶ

目を閉じれば いつだってここにある

それを人は故郷と呼ぶ

それを人は故郷と呼ぶ

そして 人は皆 いつか故郷に帰ってゆく