Pretender (feat. 重音テト) [Cover]

Official髭男dismの「Pretender」は、令和時代を代表する失恋バラードとして日本の音楽シーンに深く刻まれました。2019年に発表されるやいなや、映画『コンフィデンスマンJP』の主題歌として一気に広まり、YouTubeの再生回数は10億回を超え、ストリーミングチャートでも長期間トップを記録しました。その人気の理由には、日本特有の「未練を美学とする情緒」があります。恋が叶わない切なさをただの悲しみとして描くのではなく、相手の幸せを願いながら自分の想いを静かに胸に秘める姿に、多くの日本人が共感を覚えました。歌詞の中で繰り返される「グッバイ」という言葉は、西洋的な直接的別れではなく、どこかに余韻を残す「去りゆく背中を見送る情景」として響きます。これこそが日本的な情緒と結びつき、国民的な楽曲へと成長した理由といえるでしょう。

この名曲を重音テトが歌うことで、新たな楽しみ方が生まれます。テトはUTAUというボーカロイド文化の中から登場したキャラクターで、明るさやコミカルさを持ちながらも、ファンにとっては確かな存在感を持つ「もう一人の歌い手」です。彼女が「Pretender」を歌うことで、楽曲に込められた哀しみとテトの親しみやすい声質とのコントラストが際立ちます。結果として、聴き手は「本来は重く沈む失恋の歌」を、どこか軽やかに、しかし胸に深く響く形で受け止めることができるのです。また、重音テトという“創作キャラクター”が歌うこと自体が、現実と虚構の間にある「叶わぬ恋」というテーマと共鳴し、よりメタ的な楽しみを提供します。つまり、テトのカバーは単なる再解釈にとどまらず、日本的な情緒を新しい角度から味わえる表現となり、オリジナルとはまた違った共感と感動を呼び起こすのです。