※ 試聴は反映までに時間がかかる場合があります。
※ 著作権管理事業者等が管理する楽曲は試聴できません。
駅前の大きなツリーが、夜風に揺れていた。
仕事帰りの人波の中で、白い息が宙に溶けていく。
言葉を選びながら歩く二人は、まだ友達とも恋人とも言えない距離にいた。
改札前で肩がぶつれた。
ただそれだけの出来事なのに、その日が少し違って見えた。
君が笑った横顔に、冬が一歩近づいた気がした。
何度もすれ違い、そのたびに遠慮してきた。
この距離に名前をつけるのが、少し怖かったから。
でも降り始めた雪が、迷いを隠すように街を包み込み、
二人の足元には、自然と重なる影ができていた。
並んで歩く影は、迷わず同じ方向へ伸びていく。
答えを知っているのは、言葉じゃなく、雪だけのようだった。
窓に映る二人は、いつの間にか似た表情をしている。
冗談で埋めていた沈黙が、なぜか温かくなっていく。
手袋越しに触れた指先から、ためらいが一つ消えた。
怖かったのは、失うことより、変わってしまう自分。
けれど君の歩幅に合わせて歩くと、心の揺れは止まった。
もし、また一人の影に戻る未来があるとしても。
そう思った瞬間、君が名前を呼んだ。
その一言で、迷いはすべて過去形になった。
雪はいつか消える。
でも、あの夜、影が一つになった並び方だけは、
きっと忘れない。