

ある朝 空は異様に静かだった
鳥の声も 宮廷の物音も
遠く聞こえるだけで
近くには何もない
ピアノがゆっくりと
長い夜の終わりを刻む
ヴァイオリンが 淡く
夜明けの色を描く
王は玉座ではなく
窓辺に立っていた
超早口で指輪と過ごした日々をなぞる
第一の契約 建てられた城壁
囁かれた声 裂け目としての知恵
王と影の審判
その全てがこの小さな輪に
折り畳まれている
指先から伝わる金属の重さは
もはや物質だけのものではない
そこには王国の歴史と
影たちの呻きと
自分自身の迷いが絡み合っている
オルガンが静かに 朝の祈りを鳴らす
合唱が柔らかく
「終わり」と「始まり」を
同じ音で歌う
笛がそっと
解放の線を指し示す
指輪を外した朝
ソロモンは誰にも見られない場所で
ゆっくりと指から輪を抜く
七十二の名が 一斉に沈黙する
解放か 喪失か 敗北か
そのどれでもあり どれでもない
ただ一人の人間が
自分の限界を認めた音が
静かに響いた
ピアノが和音を分解し
ヴァイオリンが 別れのフレーズを紡ぐ
指輪は机の上で
ただの金属に戻る
そこに宿っていた力が
どこへ行ったのかを
誰も知らない
超早口で自分に問いをぶつける
「これで本当に良かったのか」
「王国は弱くなるかもしれない」
「それでも人でいたいと思ったのか」
問いの数は減らない
ただその矛先が
少しだけ優しくなった
笛が高く 新しい一日の輪郭を描く
合唱が
冠と指輪のどちらにも属さない
名もない歌を歌う
王である前に人であること
人であるまま王でいること
その両方をようやく
同じ一句に置けそうな気がした
指輪を外した朝の王は
もはや七十二の影を従えてはいない
だからといって
過去の契約が消えるわけでもない
共に築いたものも
共に壊しかけたものも
全部を抱えたまま
それでももう一度
自分の足で立つと決めただけ
指輪を外した指を見つめながら
ソロモンは静かに笑う
そこには跡が残っている
完全には消えない輪の痕
それは失敗の刻印であり
同時に 共に生きた証でもある
王と七十二の影の物語は
ここで閉じてもいいし
どこか別の誰かが
続きとして語り直してもいい
その余白ごと
朝の光に委ねる
オルガンが最後の和音をゆっくり消し
ヴァイオリンが一筋の線を空へ伸ばす
笛が短く
新しい日付を書き込むように鳴る
机の上の指輪は
何も言わない
ただ静かに
光を跳ね返しているだけだった
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