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潮の間にゆらめく月。
白き兎は、海を越えて向こう岸へ渡りたいと願いました。
そこには、自分が慕う美しい女神――八上比売(やかみひめ)が住んでいると聞いたからです。
しかし兎には翼も舟もありません。
どうしても渡れない海を前に、彼は考えました。
そして、海に棲む和邇(わに=サメ)たちにこう持ちかけます。
「お前たちの仲間と、兎の仲間、どちらが多いか数えてみよう。
あの島まで並んでくれれば、その上を跳んで数えてやろう。」
和邇たちは面白がって並び、兎はその背をぴょんぴょんと渡っていきます。
しかし最後の一匹を踏んだとき、思わず口を滑らせてしまいました。
「だまして悪かった! お前たちの背を使って渡ってきたのだ!」
怒った和邇たちは兎の毛を剥ぎ取り、
白兎は血だらけで浜に打ち上げられます。
海の塩が傷にしみ、痛みにうずくまりながら、
誰にも助けられず泣いていました。
そこへ通りかかったのが、八十神(やそがみ)たちの一行。
彼らは白兎を見て、面白がって言いました。
「海の潮で身を洗えばよい。」
兎はその言葉を信じて実行しますが、
潮が傷にしみてさらに苦しみました。
そこへ、最後に通りかかったのが大国主命(おおくにぬしのみこと)です。
彼だけが、そっとこう言いました。
「川の真水で身を洗い、蒲(がま)の穂の上に寝なさい。」
兎はその教えに従い、すると傷が癒え、
白く柔らかな毛並みを取り戻しました。
涙の中で笑顔を取り戻した兎は、
彼に向かってこう告げます。
「あなたこそ、八上比売を妻にするお方です。」
その言葉はやがて現実となり、
優しい神・大国主命は女神と結ばれます。
兎の痛みと祈りは、未来を照らす“予言”に変わったのです。
──この歌『稲羽の白兎』は、
その神話をもとに、“痛みを越えて光へ渡る心”を描いたもの。
嘘を悔い、傷つきながらも、
なお純粋な願いを失わなかった兎の魂は、
「赦し」と「再生」の象徴です。
波に身をゆだね、涙を潮に溶かし、
やがて風となり、光に還っていく。
それはすべての命がもつ、“生き直す力”を語っています。