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【穏やかに成し遂げられた《金字塔》】


いつ聴いても『レッドアトム・ブラックホール』には感動してしまう。1960年代の少年の私と今の私の心が共に満たされる感覚。
そこで、欲張りな要望が芽生えた。
この極上サウンドが社会的存在としての意思表明ではなく、豊かな日常感覚の表現として響いたら、どんなに素敵だろう?か、と。

そうしたら、なんと、既に5枚目のアルバムがそうなっていた。

私にとっては夢のような2023年だった。

ローリング・ストーンズの『ハックニー・ダイアモンズ』、ビートルズの『ナウ・アンド・ゼン』、そうして、先日、シェルターズの5枚目のアルバム、仮称・通称『マリフロ』(ラフミックス・未マスタリング)を聴くことが出来たからだ。

私には年の離れた姉がいて、、だから、子供の頃、採って来たばかりの椎の実やドングリを、クロガネの勉強机の上に並べて、ベーゴマと交互に眺めている隣では、1960年代中期のビートルズやストーンズが家具調のステレオ?モノラル?から流れていた。
縁側では祖母が、ミカンや黒飴と緑茶だけで、延々と近所の人たちと喋り続けていた。

そういう世代としてなのか、、本能的に或いは習慣的、または被洗脳的?に、大都会以外の日本の空気感と高音圧的?ロック音源は本当には馴染み合っていないのではないか?と感じてしまう。

シェルターズは基本的に、(『ヴェルヴェット・サイドカー』や『ハイブリッド・アンプリファイア』の様な意図的な例外は有るにしても)声をダブらせない。
美月氏の声の後ろに美月氏の声がしないのだ。

これはTLSが、1965年以前の音感覚も、1970年代以降の録音芸術と併せて深く理解しているからだと思う。
TLS Records 発足前には、シェルターズのレコーディング現場にはメジャー・アーティストのプロデューサーが複数人居たから、それでも《勇気ある音像の隙間》を保っていられたのは、【シェルターズは静かなる頑固者】だから、なのではないか?と私は秘かに思っている。(それは大宮ソニックシティ大ホールでのセットリストにも見て取れる。)

さて、そこで今回の5thアルバムからの先行第二弾シングル【家具を買いましょう】である。

冒頭のギター、ドラム、ベースの登壇場面から、既に《色々なグループの真骨頂より、更に、色々なグループの真骨頂的》ではないか?、、そして、やっぱり【ヴィンテージ且つ未知の最新】ではないだろうか?と、感じてしまう。

この上、美月氏が歌い始めたらどうなるのか?、、、

あっ、歌い始めた!!、、

少年の私と最新の私の心が、共に喜び、踊りだす。

メンバー同士の呼応感に溢れたナマのグルーヴがそこに有るからだ。
深いダイナミクスと隙間感と雑味感も健在だ。

(美月氏の歌唱テイクはドラム録りの時の同時一発録りだ。)

私たちが1980年頃から忘れがちだった何か、、が本当に此処に在る。

《命懸けの一回性の中での必然的曖昧さが孕む緊迫感》と云うようなもの。

現代では、ヨワイ、と感じたら、すぐさま補完する。

本当にそれは、ヨワイ、のか?

音楽プロデューサーの、「じゃ、次、コーラス、ダブりまーす!」的な。
或いは、映画監督の「は~い、では、次、同じシーン、別アングルで撮りま〜す」的な。。

一体、それは、同じシーン、なのか?

それらをシェルターズは【穏やかに吟味する】。

其れは、『リボルバー』やブライアン・ウィルソン、或いはブライアン・ジョーンズが願っていたことと、本質的には、大きく違う、のではないか?

其の指示は、鵜呑みには出来ない、のではないか?、と。

大宮ソニックシティ大ホールのロビーで、TLSの4人は私たち夫婦に心から優しく接してくれた。
これからもライブハウスで彼女たちは何時までも優しいことだろう。

だけれども、穏やかに優しいままの彼女たちの背景に、いつの間にか、5枚のアルバムたちが、恒久性を保持しながら聳え立っていた、、ことに、私は《オソレ》を感じる。

こう云う事は、六十数年生きて来て、今までなかった。


2023年11月末

ロックンロール愛好者
ホワイト・フォース・ジュニア

Artist Profile

TLS Records