中也の秋のジャケット写真

歌詞

湖上 (feat. 昼見月 笑)

朧月 華凛

Mmm, mmm, mmm

ポッカリ月が出ましたら

舟を浮べて出掛けましょう

波はヒタヒタ打つでしょう

風も少しはあるでしょう

Mmm, mmm, mmm

沖に出たらば暗いでしょう

櫂から滴垂る水の音は

ちかしいものに聞こえましょう

あなたの言葉の杜切れ間を

Mmm, mmm, mmm

月は聴き耳立てるでしょう

すこしは降りても来るでしょう

われらくちづけする時に

月は頭上にあるでしょう

あなたはなおも語るでしょう

よしないことや拗言や

洩らさず私は聴くでしょう

けれど漕ぐ手はやめないで

ポッカリ月が出ましたら

舟を浮べて出掛けましょう

波はヒタヒタ打つでしょう

風も少しはあるでしょう

Mmm, mmm, mmm

Mmm, mmm, mmm

  • 作詞者

    中原 中也

  • 作曲者

    Yuji Konno

  • プロデューサー

    ARTCHIC

  • ボーカル

    朧月 華凛, 昼見月 笑

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中也の秋

朧月 華凛

「中也の秋」は、中原中也の詩の中で秋をイメージさせる詩8篇を厳選し、プロデューサーARTCHIC(アートシック)が現代的な音楽として解釈したコンセプトアルバムです。中也の詩を現代でも自然に響く形で音楽化することを目指し、5名の異なるAIシンガーを採用し、多彩なジャンルでお届けします。

最初の曲は「秋の消息」です。何気ない日本の都会の秋の風情が詠まれた詩ですが、臨場感あふれるイメージとして感じられます。「日向ぼっこ」の温かさや「すだける蟲(むし)の音(ね)」、さらには、「手や足に、ひえびえと」するような感覚を、この詩を眺めているだけで体験できてしまうように思えます。この楽曲はアンビエントインディーフォークをベースとし、アコースティックギターの優しいサウンドスケープの中にはノスタルジックなムードも漂います。現代的なアーバンポエトリーの要素を含みつつ、ミニマルなプロダクションによって温かな孤独感と季節的な郷愁を表現しています。昼見月笑(ヒルミヅキ エミ)が、この楽曲を可愛らしい声で歌いました。彼女の少し拙いような歌い方が、この曲の素朴なイメージをうまく表現しています。

2曲目は「山上のひととき」です。中也の長男文也への深い愛情を歌ったものとされます。「いとしい者の上に風が吹き/私の上にも風が吹いた」と繰り返される詩句には、愛しいわが子とその子を見守る若き父親の穏やかな情景が描かれています。しかし同時に「世間はただ遥か彼方で荒くれて」いるという現実も歌われており、平穏な親子の時間と騒がしい俗世間とに感じる心象の対比が、この詩の一つの特徴となっています。この楽曲はドリーミーインディーポップをベースとして制作しました。アコースティックピアノの幻想的な響きと優しいビートが山上の静寂を描き出し、浮遊するようなメロディーが父子の愛情深い瞬間を描き出します。一方で、明暗のハッキリしないアンビエントなサウンドスケープが緊張感を漂わせています。朧月華凛(オボロヅキ カリン)が、この楽曲を美しい声で歌いました。神秘的で表現豊かな彼女の歌声は、父と子の愛情の深さを巧みに歌い込んでいます。

3曲目は「月夜の浜辺」です。月夜という幻想的な舞台設定もさることながら、「それ(ボタン)を拾って、役立てようと/僕は思ったわけでもないが/なぜだかそれを捨てるに忍びず/僕はそれを、袂(たもと)に入れた」という詩句は、一見何の変哲もないボタンへの執着であるだけに、ボタンの内奥にある中也の思いを慮らずにはいられない、とても印象的な作品です。この楽曲はモダンヒップホップをベースにし、チルでメロウな音楽として制作しました。ゆったりとしたビートとアンビエントな音響効果は、詩の持つ静かな雰囲気を音楽で描き出し、最後のアコースティックギターのメロディがリラックス感を深め、一層の彩りを添えます。松戸モードが、この楽曲を落ち着きのある声で歌いました。彼の深みのある歌声は、月夜の静寂の中で一人佇む男の心境を的確に表現し、ボタン一つに込められた繊細な感情を巧みに歌い上げています。

4曲目は「ナイヤガラの上には、月が出て」です。実際にナイヤガラの滝を見たことのない中也が、想像の中で描いたナイヤガラは、現実の雄大な自然というより、月と雲、波頭に砕ける月の光、どこからか聞こえるギターの音といった、おとぎ話のように美しく幻想的な世界です。そうかと思うと、「僕は中世の恋愛を夢みていた。」「奈落の果まで行くことを願っていた。」という詩句からは、中也の想像の世界を垣間見ることができます。この楽曲はモダンヒップホップをベースにし、チルでメロウな音楽として制作しました。エレクトリックなシンセパッドは月のある晩のナイヤガラの絶勝を表現し、電子的なドラムサウンドが中也の夢の世界を淡々と進めていきます。松戸モードが、この楽曲を落ち着きのある声で歌いました。彼の大人の魅力を感じさせる歌声が、月夜のナイヤガラの幻想的な情景、そして詩人の内面の夢想を歌い上げます。

5曲目は「白紙(ブランク)」です。「書物は、書物の在る処。/インキは、インキの在る処。」というくだりは、中也の時代の創作環境を彷彿とさせます。また、「私はもはや、眠くはならぬ。」「しずかに、しずかに、夜はくだち、」という詩句からは、時間を気にせず創作に没頭する作家の姿が見て取れます。さらに、「得知れぬ、悩み」は、作家にとっては作品作りの悩みに違いありません。そして、「私は、何にも驚かぬ。/却(かえっ)て、物が私に驚く。」という表現は、作家への視点として、まさに言い得て妙です。この楽曲はモダンR&Bをベースとして制作しました。深夜の静寂と作家の創作をシュールと見る着想を以て臨み、ジャズの要素も取り入れたアレンジは、詩が語る、究極まで研ぎ澄まされた感覚と呼応します。Jordan礼(ジョーダン レイ)が、この楽曲を重厚な声で歌いました。英語風アクセントを感じる彼のソウルフルな歌い方は、中也の詩の精妙さを壊してしまうのではないかと思いきや、むしろ、引き立てています。

6曲目は「サーカス」です。中也の代表作の一つとして広く愛されているこの詩では、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」という独特のオノマトペが特に有名です。これはブランコの動きを表現したとも、サーカスの音響を表したとも解釈できますが、とにかくも忘れることのできない一節です。他にも、「屋外は真ッ闇(くら) 闇の闇」はとても小気味よく、「観客様はみな鰯(いわし)」はその比喩が巧みの域を超えています。詩全体としてみてもストーリー性があり、ドラマチックでさえあります。この楽曲はモダンR&Bをベースとして制作しました。サーカス見物の際の幻想的で心躍る感覚を現代的なサウンドで表現し、ドラマチックなアレンジを施しています。ジャジーな要素を取り入れながらノスタルジックな雰囲気も大切にしています。Jordan礼が、この楽曲を力強く歌いました。英語風アクセントを感じさせる特徴のある魅惑的な彼の歌声は、サーカスの華やかさと郷愁を同時に力強く表現し、「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」の響きを歌い上げてくれます。

7曲目は「嘘つきに」です。中也が自分自身への厳しい内省と自己欺瞞への疲労感を詠んだ作品です。簡単に言うと、“自分の行動に、ほとほと嫌気が差した”という内容の詩ということになります。ただ、このような誰にとっても扱いにくい感情を中也ほどの詩人が経験するとき、そのネガティブさすら“素敵な芸術”として大昇華させてしまうのには感心する他ありません。そしてこの詩一篇を読むだけでも、中也の凡人ならざる所以との評価を余儀なくさせるのです。この楽曲は、モダンなオルタナティブロックとして制作しました。エレクトリックギターの“主張する響き”が、詩人の鬱々とした葛藤を音楽的に描き出しています。一水鐘(イッスイ ショウ)が、この楽曲を透明感のある声で歌いました。シャウトすることなく静かな声で、諦念と内なる苦悩を繊細に、そして丁寧に歌い上げる彼の歌声は、この内省的な詩の心境を的確に表現しています。

アルバム最後の曲は「湖上」です。冒頭と末尾には、「ポッカリ月が出ましたら、」「波はヒタヒタ打つでしょう、」というオノマトペを使った中也の独特なフレーズが周到に配置され、忘れがたい印象を与えられます。そして何より、月夜の湖で恋人同士がデートで舟遊びをしているというロマンチックな内容が、この詩の魅力を決定づけています。この楽曲は、ドリーミーインディーポップをベースとして制作しました。月夜の湖上という幻想的な情景を現代的なサウンドで表現し、シンセパッドの柔らかな響き、優しい電子ビート、浮遊するようなメロディが、詩の持つ一定のリズムと美しく調和します。リバーブに包まれたピアノや、やさしく刻むパーカッションは、詩世界の情景の優美さを描き出します。朧月華凛が美しい声でメインボーカルを担当し、昼見月笑が可愛らしい声でハミング部分と歌詞の一部を歌いました。楽曲は昼見月のハミングから始まり、この歌の幻想的なイメージを形成すると共に、リスナーを中也の詩世界に優しく誘います。そして朧月の魅惑的な歌唱によって、最後までロマンチックな情感で満たされることでしょう。

このアルバム「中也の秋」の楽曲を通じ、聴く人すべての心に、中也の詩の心がしっかりと届くことを願うばかりです。

アーティスト情報

  • 朧月 華凛

  • 昼見月 笑

ChicAudio Lab

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