12×4 Front Cover

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【動きを止める。音楽がおのずから動き出すのだから。真空を感じる。豊穣はそこにしか無いから】


売れる気ねえなあ、とか思った。去年の11月のことである。

マリフロのアルバム制作が終了間際となった時空氏と話していたら、6枚目のアルバムを1910年から1940年くらいのサウンドにしたいと思っている、と言ったからだ。実は2年ほど前から考えていて、4人のバンドサウンドの熟成を待っていたのだ、と。
「あっ、そう、、」と私は言った。時空氏は頑固だから。

でも2週間もすると、私は北陸新幹線に乗って金沢市に行っていた。2023年の12月8日と9日で、この季節としては異例の天気の良さだった。蓄音機を聴きに行ったのだ。大正期から昭和初期のものを中心に八台程聴かせていただいて、夜と昼であまりにも美味しいお鮨を2回食べて帰って来た。気分が良くなっていたのだと思う。財布の紐が緩んだ。俄然、4人の来年のサウンドが楽しみになった。

何故、シェルターズが楽しみになるのか何時も分からない。時空氏は「生活から音楽が生まれるのだから、音楽から模倣して音楽を作ってしまう事に注意している。生活と音楽の間に在る動きにこそ留意したい」と言っていたから、私も音楽中毒に注意している。だから、のほほん、と、お鮨を食べて、のほほん、とシェルターズの新譜を待っている。

なんてのは全くの嘘で前頭葉全開で分析的でさもしい待ち方をしてしまう。いったい所謂戦前のサウンドが今の世の中にどうやって通用すると言うのだ。

《中略》

絶対、売れねえ、と思ったあの日から10ヶ月が経った。
6枚目のアルバム「トゥエルヴ・バイ・フォー(仮題)」のマスタリング前の全体を聴いた。

最高傑作の誕生だと思う。
売れる、とか売れない、とかいう思考が第一義で棲み着いた頭だと、こういうのは出来ないのであった。

音楽業界からのオハナシや諸先輩方からのライブへの有り難いお誘いを心ならずもお断りしてまで、今年中に6枚目のアルバムをリリースしておきたかったのも頷ける別格の旬(特に旬なのはリズム隊だ)の果実だ。
また、お節介ながらも私が心配していた「戦前のサウンド」も、その精髄を継承している形で、サウンド・音質を模倣しているわけではなかった。その継承・敬愛ぶりは、、また実際の歌唱・楽曲への昇華ぶりは日本の音楽業界においてはエポックメイキング、だと思う。
怒られるが敢えて云うと実績のあるプロデューサーのもとでは、このアルバムでの偉業の達成は不可能であっただろう。(経験が深い程、見逃せないラフさが多々ある、しかし本当にラフ、なのか?)

それにしても私のようにサービス過多なサウンドと歌詞に甘やかされたバブル期人間には凄まじく渋過ぎる味わいだ。

聴く構えとして、待ってい過ぎても聞こえて来ない燻し銀だし、掴まえようと身を乗り出し過ぎても逃げて行ってしまう燻し銀だ。聞き手と音の間に音楽が在る。自身の身の置き方次第で何度でも違う聴き方が出来る不思議なアルバムだ。生き物のようでもある。

このアルバムは配信系でも全篇聴いて戴ける予定なので、蛇足となるこの文章も解説やライナーノーツの体裁を整えずに、こんな感じのまま中途半端で終わりたい。

でも、なんで、この4人はこんなに落ち着いて音楽が出来るのだろう。
音楽への深い信頼が有るのだろう。
決して急いで「コンテンツ」を増やしている訳ではない。
音楽史上の最も良い先輩達に恵まれた。
それ故、音楽を信頼し、もしかしたら音楽からも信頼されている。
そんなことさえ感じさせる最新アルバムの誕生だ。
(是非、ライブでこそ聴きたい)

冒頭の題名は池袋の居酒屋で時空氏と2時間ほど飲んだときに彼が喋っていた事のエッセンスである。

善い歴史は敬愛され継承された。

私は金沢市の(これまた生き物のようであった)百年前の蓄音機たちを、一生繰り返し思い出し続ける事になるだろう。


2024年9月

ロックンロール愛好者
ホワイト・フォース・ジュニア

Artist Profile

TLS Records