Lyric

玄関に吊るした鐘の音が聴こえた気がした

時計の針が遅い午後に

今日もまた、行き場を失った溢れた言葉が

廊下を通って、窓から出ていく

ふと、読み返す小説

栞を挟んだ、あのページまで

あなたといつか踏んだ影を辿って

あの、なんでもない日の続きまで

いつまでも明けぬような夜を越えて

高く蒼く澄んだ、あの空を唄えば

そこに見た、あの雲を唄えば

くたびれた靴は土を蹴る

背中で受けた風に押されて

あなたがここに現れる日を

ずっと待っているから

沸かしたお茶

飲みきれないまんま冷めていくばかり

あなたの湯呑みが欠けた午後に

ねえ、私の思う幸や不幸や

あるいはその他全てを

切り分けた、この半分をどこへやろう

あなたといつか踏んだ影を辿って

あの、なんでもない日の続きまで

足並みの揃わない朝を越えて

庭に成った、あの小さな柚子を唄えば

吹かれた、あの風を唄えば

遠ざかる明日に手が伸びる

極彩色の小道を抜けて

あなたがここに現れる日を

ずっと待っているから

陽が落ちて、窓を閉ざすその度に

部屋の広さと静けさが胸を刺して

続く毎日の景色の隅に映った気がした

あなたの影を数え、眠る

また読み返す小説

栞を挟んだ、あのページまで

あなたといつか踏んだ影を辿って

あの、なんでもない日の続きまで

降り積もる毎日に花を添えて

あなたと二人で始めた物語に

挟まれた栞を来たる日に

せーので外して続きへ行こう

あなたといつか踏んだ影を辿って

灯り、流るる川を渡って

あなたがここに現れる日を

ずっと待っているから

「戻り」の無い木舟に乗って

あなたがここに現れる日を

ずっと待っているから