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Salvaged Tapes2019年のテーマは「Juvenile」。 少年のもつ純粋さや秘めた強さを、サウンドインスタレーション作品展示や、オーディオビジュアル分野の展示企画・ディレクションなど多岐にわたって活躍するMiyu Hosoiに表現していただきました。冷たく、時に刺すように清冽な声。 打ち寄せるさざ波のように響いてくる音像。 世界的にも例が少ない22.2ch音源と、そのHPL22音源を含む Miyu Hosoiが表現するJuvenileは、汚れのない、 神々しささえ漂う純粋さをもって、根源的な強さを秘めた 少年の心を思い起こさせてくれます。 自身の発する声のみで表現するという制限のもと制作された本作、Miyu Hosoiは自身初のフルアルバムとして声の文脈も加味したストーリーを表現したかったといいます。 それは単に音楽的な文脈のことを指すのではなく、声を幾重にも重ねることに端を発したアナログ的なアプローチから、メディアの力を借りた最新のテクノロジーまで、複数の方向性で声の可能性を提示できるようにすることでした。 清冽な湧き水の一滴のように澄んだ響きを残すM1 『Chant』。単旋律からポリフォニーへ進化していく様子を1枚のアルバムの中で表現したかったという彼女は、この曲を特殊な残響のある部屋で収録し、イコライザーやリバーブを使用せず、収録された声をそのまま活かす方法を採用しました。本作品の1曲めにふさわしい、生まれたままの純粋さ、静けさが極限まで追求された楽曲と言えるかもしれません。 雨の日の庭を想像して制作したというM2 『Jardin』は、唯一感情を全面に出して録音したと語っています。楽曲中盤では水があふれるようなイメージを、クラシックな譜面のアプローチながらエフェクティブなシーンをも取り込み見事に表現しています。 続くM3『Rovina』では、マイクとの距離やブレスの強弱、増減を巧みに使い分け、1人で表現できる声の多様性について追求したといいます。多重録音ならではの多面的な遊び心をのぞかせながらも、不思議と一体感を感じさせる1曲となった点において制作チームも良い意味で想定外だったそう。 M4『Fonis』では今まので声楽的な作風を一新し、声を素材としてサンプリング、エディットすることで、声の可能性を拡大することに成功しています。声を楽器に似せるのではなく、声そのものが音を奏でられるインストゥメンタルの一種であるという原点に立ち返る姿勢を示しているようにも見えます。自身で作曲したというアルバムタイトルを冠したM5『Orb』。天体、球というイメージから、アルバムを通して感じられる一本の道筋の周りに、発せられた音が周回するような感覚で制作したと語っています。音楽と音の境界をゆっくり行き来するような、自転と公転を遠くから眺めている様なさまを思い起こさせます。 22.2chをHPL22として収録したM6『Lenna』は、現代のテクノロジーを用いた空間表現において人の声で表現できる幅を押し広げました。作曲を担当した上水樽氏の「ダイナミックレンジ、音域、モノラル、サラウンドを含んだ空間レンジを最大限に活かすよう作曲しました。」という言葉通り限りなく実験的な作品であるにもかかわらず、一方でミックスを担当した蓮尾氏の「音楽を空間の広さ、狭さ、粗と密、静と動で表現したいと思いました。あくまで音楽でであることを念頭にバランスをとることを目指しました。」という言葉からも、この楽曲が音楽的にも高度に完成されており、まるで個々の音声データが人格を持っているかのように、時に人を惹きつけ、また置き去りにしていくようなJuvenileの挑戦的な側面を体現していると言えるでしょう。 音が水のように溢れ、流れを作り、満たされていくような感覚に捕らわれるかもしれません。清冽で、ささるほど冷たい、凛とした佇まいの水。 Miyu Hosoiが表現するJuvenileが余すところなく収められた1枚です。
1993年愛知県生まれ。 慶應義塾大学総合政策学部卒業。高校時代合唱をきっかけに現代音楽に触れ始め、大学在学中からヴォイス・プレイヤーとして数々の楽曲、ライヴ、サウンド・インスタレーションに参加。また音楽家としてのバックグラウンドを活かした企画で、ミュージシャンとテクノロジストとの橋渡しを行ないながら、オーディオビジュアルの分野でユニークなコンテンツを生み出している。 NTT ICC オープン・スペース2019「別の見方で」では無響室にて22.2chで制作した声のみの作品”Lenna”を再構築し展示を行う。
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