Two of Earth (Remastered 2024)のジャケット写真

歌詞

Stem

シロロ

僕らあるだけの出会いそして別れは

温かいと信じていた

くだらない考え違い 時代の誤り

知らず知らず僕の隣で

育っていたこの忌み枝

焦がれていた冬の終わりに

霞んでいた幹が見えるよ

いつか顔を隠した灰色の視界だって

手を繋いで歩いて行けそうだと思っていたよ

だけど傷跡はもう乾いている 乾いている

どんなに手を尽くしてもいつかは枯れる

今は形を変えてしまう

夢ならばどこでもいいの

笑っていてほしい

塗りつぶして 塗りつぶして ただひたすら泣いたって

報われなくて青空切り取っていた 箱庭の中

そうそれは顔をなくした灰色の世界だって

同じなんだ 青空切り取ったら……

話途中で残された君の事なんてもう覚えていない

  • 作詞

    林直子

  • 作曲

    市瀬高大

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「地球はもうダメだ」……本作はそのようなコピーが付けられた、3人組バンド Xiloro (シロロ)の1stアルバムだ。オリジナル版は2016年に発表され、ここで聴くことができるのは2024年にリマスターが施されたバージョンとなる。

バンドでギターや作詞作曲を務める Mokine はゲーム制作団体 Chloro を主催しており、2015年に発表した『西暦2236年』で注目を浴びる気鋭のインディーゲームクリエイターでもあった。『西暦2236年』においてもMokineは一部のBGMを手がけており、音楽制作者としての一面があることが知られていた。Xiloroは、そんな彼が満を持して発表する音楽メインのプロジェクトだったため、本作もリリース前から熱い視線が注がれていた。この度 Mokine による大幅なリマスタリングとリミックスが施されており、発表から8年を経て、よりクリアなサウンドを楽しむことができる。

全13曲で構成される本作は、サウンドの基調はスピード感のある鋭いハードロックだが、曲によってはグランジのような厚みのあるギターサウンドがうねってみせたり、夢遊病的なシューゲイズサウンドが垣間見えたりと、計算された緩急があり聴く者を飽きさせない。日本のアニメ·ゲーム文化はハードロックやメタルとの親和性が高く、特異的な文化的発展を遂げてきた歴史があるが、そのような中でXiloroではメタリックなアプローチは抑制されている。敢えて表現すると、「やわらかメタル」あるいは「やや固ハードロック」と言えるような領域に留まっており、サウンドプロダクションからはバンドのポップ志向が伺える。また、バンドのカラーを決定づけているのは Melty による透明感のある歌声で、あどけなさもエモさもしなやかに行き来できる表現力の高さが多様な楽曲表現を可能にしている。

メインのアレンジアイデアは Mokine が構想し、ギターの Ichise が作詞や作曲を、 Melty が詞を作成するなど、役割分担はフレキシブルな形態が採用されている。ともすれば散漫なアルバムになりかねないが、一人称的視点で風景や心情が描かれていることは共通しており、短編私小説のアンソロジー集のような趣がある。また、それぞれの楽曲で異なる人物が主人公に据えられているが、3人の作詞家が、それぞれの脳内にいる「君」のことや風景を綴ることで、少しずつ聴き手の心の奥ににじり寄っていく。


『Neverlasting』
重くアグレッシブな響きを聴かせるギターリフと、相反するように内省的な歌詞と叙情的なメロディが絡み合っていく、アルバムの幕開けを飾るナンバー。「赤い糸が切れてしまうその前に」というラインなどは、本来切れるはずのない運命を意味する赤い糸が切れてしまうという、恋愛の理不尽さや皮肉さを感じさせる秀逸なパンチラインだろう。アルバムを通して、主人公が切実に求める「君」が存在していること、そしてその対象との関係性に懊悩していることが聴き手に示される。

『Two of Earth』
現代日本で生活していると使われないような言葉が羅列される、どこかSFショートショートを思わせる楽曲。アルバムのいくつかでMeltyが作詞を手掛けているが、肩の力が抜けたユーモアを感じさせ、それが感傷に傾きかねない内省的なアルバムにカラッとした印象を添えている。

『Minty Infinity』
勢いに弾みがつく疾走感あるナンバーだが、ファットなリズムとヘヴィなギターサウンドがかき鳴らされていて、楽曲の構成はJ-POP的。ユニークな要素の配合を楽しむことができる。

『おぎののせい』
全て英語で書かれた詞が、一筋縄ではいかない珍妙なぎくしゃくとしたリズムに乗せられる。

『Roll Out Push』
ナンセンスなワードが羅列される、ジャムセッション風の楽曲。

白眉なのはギターの独奏インスト曲『Remined』だ。ディレイがかかった淡く揺らめくギターの音色が、ドリーミーでトリップ感のある空間を生み出す。静謐で蠱惑的なサウンドだ。

そのままなだれ込んでいく『Wombat』では考察しようとするリスナーの肩を透かすようなナンセンスな言葉遊びが繰り広げられる。ブリッジパートの Melty による1人アカペラのコーラスは、アルバムの中でも指折りの美しさ。こういった繊細な美しさがバンドのアクセントとなっている。音の面でも言葉の面でも、聴き手を驚かせる展開が巧妙に仕込まれている。

『Lake』
アルバム中盤のハイライトとなる楽曲。伸びやかな歌声と、プログレッシヴロックを思わせるサウンドが絶妙なマッチを見せる。残された時間が多くはないことを思わせる言葉が焦燥感をかき立てる。

『星の国』
伸びやかなギターと、絵本やお伽噺のような語り口の穏やかなボーカルが、聴く者の心をなだめつかせるようだ。歌詞で宇宙空間への言及が多く含まれることから、前曲からの繋がりを思わせる。アルバムもこの辺りまで来ると、元の場所には戻ることができない、どこか遠いところまで来てしまったような感覚になり、なんだか心細くなる。宇宙を漂流しているような、寄る辺ない者の孤独感を覚える。

『Stem』
ベースが目覚ましく活躍する。美しいギター。1人アカペラが効果的に用いられる。この曲の主人公は、すでに諦念があり、自分の過去を受け入れているように感じさせる。

アルバムのクライマックス『Hyperbola』は、唯一Ichiseが作詞作曲の両方を手がけた出色のナンバー。言葉、アレンジ、楽曲の構造、歌声、全てが1つのベクトルに向けられていて、愚かしいまでに「君」を求める様は、聴き手の胸をかきむしることだろう。ナンセンスな言葉遊びとシュールなシチュエーションの中にところどころで抑制の効いたエモも顔を覗かせる。

『時計』
穏やかな曲が展開していく中に、つんざくようなギターとリズムが割って入ってくるは、悪い熱にうなされているような感覚に陥る。歌詞からは、主人公の自責の念の強さが痛いほど伝わってくる。直接的に『Hyperbola』からの物語上の連続性は示されないが、あの切実だった主人公の想いは叶わなかったのではないかと想像させられる。

『Rewind』
アルバムの最後を飾る、清々しさを感じさせる1曲。男女の声が混じる、作り込りこまれたコーラスワークが美しい。リワインド(巻き戻し)というタイトルの通り、現在立っている場所から人生を振り返るような内容となっている。夢幻に消えていくようなギターのアルペジオでこのアルバムは幕を閉じる。


イースターエッグとして、本作はChloroで構想されている『アリスかチョコミント』の世界観を敷衍する形で制作されている。そのため、アルバムにはゲームの断片ではないかと思わせるような内容が含まれる。
本作を聴き込みながら、アリスかチョコミントの物語を想像するのも一興だろう。そんな風に、いろいろな楽しみ方ができるユニークなアルバムが本作だ。55分の時間を作り、13の楽曲を通して聴くことをお勧めしたい。

アーティスト情報

  • シロロ

    Melty (vo), Ichise (gt), Mokine (gt, ba) による3人組のピュア音楽サークル。 Mokine 率いるインディーゲーム製作チーム Chloro から独立する形でシロロは結成された。 Chloro の作るビジュアルノベルは音楽面でも国内外で高い評価を受けている。 そこからシロロではギター、ベース、ドラム、歌というシンプルな構成に立ち返り、ロックバンドスタイルの音楽制作を開始した。 オルタナティブロック風のけだるげな雰囲気の中で Melty による透明感のある歌声と Ichise によるテクニカルなギターが華やかに冴える。 現在は音楽の小さな嬉しさを拾い上げるような「ピュアな音楽」を目標に掲げて活動している。 詞もまた日常的な視点とゲーム的な空想が交互に現れており、おもしろい。

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Chloro Music Side

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