近づいていくにつれて、また、辺り一帯が水に覆われていることに気づいた。
モールも下層階は水没しているようだった。
荷物もなくなったわたしは、迷わず水に入った。
全身が浸かると、思ったよりも冷たさは気にならなかった。
傷口は開くだろうか。わたしはゆっくり建物のそばまで泳いでいった。
割れた窓によじ登り、屋内の大きな水たまりに飛び込んでいった。
吹き抜けのおかげで、全体が見渡せる。三階より上はほとんど無事だった。
水から上がって、フロアを巡る。
濡れた服は着替えることができた。
残された食料で空腹を満たすこともできた。
ベッドで横になることもできた。
それでも、物語は残されていなかった。
寝そべりながら窓ガラス越しに見た太陽は、わたしの目を眩ませることさえできないほど、弱い明かりで佇んでいた。
目的地は、そう遠くないはず。
わたしの探しているものが、そこにあるかはわからないけれど、ほかに向かうべき場所もない。
今日を生き延びられたことに感謝なんてせずに、ただ疲労のためにわたしは眠りについた。
- 作詞
宏川 露之
- 作曲
ein himinn
ユキニフル の“初めてのショッピングモール”を
音楽配信サービスで聴く
ストリーミング / ダウンロード
- 1
水没都市
ユキニフル
- 2
ノラエのテーマ
ユキニフル
- 3
ボートに乗って
ユキニフル
- 4
夜、焚き火のそば
ユキニフル
- 5
キリグモ
ユキニフル
- 6
旅の途中
ユキニフル
- ⚫︎
初めてのショッピングモール
ユキニフル
- 8
海辺の施設
ユキニフル
- 9
探していたもの
ユキニフル
- 10
ミゾハのテーマ
ユキニフル
- 11
千年後の僕らも
ユキニフル
あなたにとっては、ずっと遠い未来の彼方。草木はビルの壁を覆い、都市の骨組みは朽ち果てて、風は絶え間ない悲嘆を繰り返していた
雨の強い日には、街路は水しぶきを上げ、この街に、この世界にあったはずの物語の足跡を洗い流そうとしていた──。
終わりを迎えた世界で旅を続ける少女、ミゾハ。はるか昔に世界から失われた「物語」を探す捜索隊の一員として、同じ捜索隊の少年ノラエと、互いに通信機で励まし合いながら目的地を目指していた。彼らが旅の最後に見つける答えとは……。
全編を通じて朗読と音楽により物語世界が繰り広げられる、ユキニフル初の朗読音楽劇。
アーティスト情報
ユキニフル
物語と音楽をコンセプトにしたユニット。 冷たさや儚さで覆われた世界を「雪」に例え、そこに降り積もる"何か"をモチーフに名付けられたこのユニットは、故郷と居場所、後悔と喪失、それでも生き続けるということをテーマに独自の世界観を表現する。 小説とCDが同封される作品は、痛々しくも確かな手触りをもって描かれることで、フィクションであると同時に現実とも通底する圧倒的な詩世界を浮かび上がらせる。
ユキニフルの他のリリース