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寒中遊泳は、「痛みに寄り添う青い光を」をテーマに活動する、クリエイター1Pによるソロプロジェクトである。
冷たさや痛みを振り払うのではなく、それらを抱えたまま光の方へゆっくりと泳いでいく。
このように儚くも確かに存在する静かな意志が、プロジェクト名「寒中遊泳」と、すべての楽曲に通底している。
1stシングル『みどりの幽霊 / 遠泳』は、喪失と記憶、それらを抱えながら前進しようとする決意を、二つの異なる距離感から描いた作品である。
『みどりの幽霊』は、星系をコンセプトに、かつて存在していた確かな感情が形作る残像を主題とした、形而上的な楽曲である。
沈む星座、量子、エキゾチックマター、ガラス越しの微笑み、放物線といったイメージは、記憶とリアリティ、触れられるものと触れられないものの境界を曖昧にしていく。
直接的に語られることのない「君」は、まるで幽霊のように輪郭を持たず、それでも確かに、視線の先や指先の感覚として、記憶の中から立ち現れる様子が描かれている。
対して『遠泳』は、より身体的で現在進行形の視点から描かれる楽曲である。
冷たい水辺に座って石を投げる情景や、息継ぎをしながらも遠くへ泳ぎ続ける姿は、受け入れ難い現実や感情を抱えながら生き続けようとする意志を象徴している。
鉄のまちの匂い、白い坂道、粉雪、縞模様の信号灯といった暗く沈んだ風景の中で、「好きだよ」、「傍で泳いでいたいよ」という言葉が繰り返されるが、それは決して明るい告白ではなく、不安や孤独を含んだまま差し出される、弱い祈りである。
恋慕としての「好きだよ」ではなく、おまじないのように自分自身へと言い聞かせる側面を覗かせている。
サウンドは、For Tracy HydeやLuby Sparksを想起させるような日本語ドリームポップを主軸に、オルタナティブやシューゲイザーのテイストを滲ませたものとなっている。
ギターとシンセサイザーが幾重にも重なり、淡い残響と余白を大切にした構成が特徴。
本作『みどりの幽霊 / 遠泳』は、メッセージをリスナーに強く突き付ける作品ではない。
むしろ、ひとりでいるときにふと浮かび上がる痛みや、忘れたはずの孤独に苛まれた際、そっと寄り添い、優しく触れてくれるような音楽である。
寒中遊泳は、この二曲を通して、冷たさの中でも泳ぎ続けることの尊さ、そして微かな光が確かに存在していることを描いている。