

しかし 理想と現実の
乖離はものすごかった
現場は秒単位の作業の連続で
事前に 紙に書いた手順など
何の役にも立たない
先輩保育士たちが
笑顔で流れるようにこなす
業務の傍らで 私は
ただ 圧倒されるばかりだった
とにかく 小さな子どもたちは泣きじゃくる
親が立ち去った後の寂しさが
力いっぱいの拒絶となって
私に ぶつかってくる
何をすればいいのか分からず
泣きすぎて呼吸が
止まりそうになった子を前に
私は慌てて先輩の元へ
その子をかかえて 走った
「走らないの 危ないから」
先輩にそう注意され
情けなさが 込み上げた
けれど 先輩がその子を受け取り
優しく声をかけながら
軽く体をなでると
まるで魔法のように泣き止んでいった
私はただ立ち尽くして
見ていることしかできなかった
すると今度は 後ろから
男の子にドスンと体当たりされ
ものすごい勢いで 質問攻めにあった
腰が痛い……
今日でまだ三日目
うちに帰って業務の
復習をしようと 思うのに
疲労で体がどうしても動かない
あらためて思う
理想と現実の 乖離
保育園で預かっている時間
私たちは子どもたちの「親」なのだ
いきなり数十人もの親になるなど
できるわけがない
私はついに涙をこぼした
何年ぶりだろうか
声をあげて 嗚咽して泣いた
自分の無力さが 情けなくて仕方がなかった
しかし 涙と一緒に悔しさを
吐き出しきったとき
私の心の中に
消えていない小さな炎が
あることに気づいた
「知りたい」と願って
自ら選んだ道だ
親の反対を押し切り
すべてをかけて飛び込んだ世界だ
たった三日で諦めてたまるものか
先輩保育士のあの
「魔法」のような あざやかさも
きっと私と同じように
数え切れないほどの
失敗と涙の末に
身につけたものに 違いない
いきなり完璧にできなくても
昨日より一歩 子どもたちの心に
近づくことができる はずだ
なぜ泣いている 情けない
腫れた目をこすり
私は深く息を吸い込む
明日は子供のこころに話かけよう
すぐ伝わるはずはないが
毎日 毎日 少しずつ理解しよう
きっと きっと きっと きっと
伝わることを願って
私はまた あのにぎやかで
妥協のない保育園へと向かう
今度こそ走らずに しっかりと
地に足をつけて 子どもたちの
笑顔の「手前」にある
本質を学び取るために
- 作詞者
m.ku
- 作曲者
m.ku
- プロデューサー
m.ku-3
- ギター
m.ku

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前日譚 その3 保育士たかはしの絶望
m.ku
当方作品ヒロイン中学校教員「たかはし先生」の前日譚です。
中学校教員免許を取得した、たかはしですが、生まれた時は真っ白な心なのに、なぜ個性が生まれるのか、彼女は人生の歩みを遅らせてもいい、親の反対を押し切っても、人の心が育つところを見たいと、保育士免許を取得し、保育士として子供たちと向き合う7部作の1です。彼女の決意を理解する第一章です。
(7章計31分のドラマです。)
なお、四年生大学を卒業後、保育士の国家試験(学科・実技)に合格すれば保育士になることができます。取得までは一年かかります。



