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壇上の鈴が鳴る時、畳部屋の世界は時を止めて動き出す。
声は迷宮を照らすライト、転落防止の命綱、そして時に恐怖からの目隠しとなる。
多くの街に経を唱える部屋がある。
大体において、その部屋の住人はやむにやまれぬ事情を抱えながら、一心不乱に声を張り上げる。
その行為とロックンロールで踊る行為は、とても似ているように思える。
異変が起きたのはあの夜からだ。--ガリガリ君の「あたり」を3連続で出してしまったあの夜からだ。 おれの脳は一体どうなってしまったんだろう? 前触れもなく猫アレルギーになった中学時代と同様、なぜだか突然メロディーが浮かぶ体質になってしまった。 通勤途中の駅のホーム。脳から湧きでてくるメロディー。 慌てるおれ。取りだすスマホ。録音アプリ起動。 --鼻歌を歌いながら得意先へ電話をするカジュアルな男と見せかけて、メロディーを忘れないよう録音する毎日だ。ホームのJKの視線が痛くてしょうがない。 それでも曲を形にして再生ボタンを押せば、些細な羞恥心なんて吹っとぶ。 おれは体を震わせながら、いつだってこう思う。 「――神曲じゃねえか」と。 正直、これからおれがなにをしたいのか自分でもよくわかっていない。ただこれだけは確かだ。 今のおれは、ロッカーだ。
Factotum Records