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数十年前、新世界のジャンジャン横丁で生きたニワトリを頭に乗せて酒を呑む老婆を目撃した。心の底からヤヴァイと思った。そんなヤヴァイと音楽のヤヴァイは違う。…と言うと思ったかもしれないけど、私はそんなに違わないと考える。JUUの音楽には、謎に満ちた、宇宙人のような、もちろん笑えてしようがないヤヴァイ神秘に溢れている。JUUはニワトリというよりカラスが似合う。『ニュー・ルークトゥン』ではカラスを頭に乗せていたが、『馬鹿世界』では怒りが彼をカラスに変えた。狂った世界の中、シラフでいるためにJUUは今日も明日もキメるのだ。(安田謙一/ロック漫筆)
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HIP HOPのグローバルとは?ローカルとは?ハイプまみれの<馬鹿世界>を塗り替えるタイの異能ラッパー、JUU4Eの新作は21世紀の汎アジア・ミュージック希望の灯であり、世界に向けて放たれた黒船だ。いや、白昼堂々来るのが黒船ならば、本作は夜を縫って海を渡り<新しいヤバいもの>を運んでくる密貿易の小型船だ。
米発祥のTRAPビートは世界の共通言語となってレプリカを生み続け、各国のラッパー達はSNS上のハイプを駆使し一発のバズからマネタイズを目論む中、ひたすら自分のローカルを力強く表明しオリジナルなHIP HOPを作り出し続けているのがJUU4Eだ。前作『New Luk Thung』(2019)ではYoung-Gプロデュースの元、タイの雑食ゲットー歌謡、ルークトゥンとHIP HOPを折衷し、最新のHIP HOPであると同時に最新のルークトゥンでもあるという傑作をぶちあげて、タイ国内の権威あるRIN (Rap is Now)の年間ベストにノミネートされ内外に衝撃を与えた。
本作は全てJUU4Eのセルフ・プロデュース。タイ日英語リリックと伸縮自在なフロー、前作よりダビーに煮詰められたトラックは、HIP HOP/TRAPを咀嚼し、完全に自分のものとした前作同様だが、特筆すべきは強く<アジア>をレペゼンしている意思が感じられる点だ。マレーシア音楽の影響を受けたタイ南部の舞踊芸能ロン・ゲン、日本民謡、そして彼が幼い頃から慣れ親しんできたテレサ・テンの曲を引用しているが、JUU4Eの地肉となってアウトプットされたそれらは、かつてワールドミュージックが持っていた見せかけのグローバルやエキゾチシズム、また現在のアジアのHIP HOPに悪気なく横行するセルフ・オリエンタリズムを軽々と一刀両断している。
もしあなたがアジアのHIP HOP熱いよね~とネットに氾濫する情報をかじって本作に触れたなら<僥倖>。「馬鹿な世界」に真っ向から挑むリリックと、圧倒的な自由さでぶちかまされるサウンドに叩きのめされて是非とも馬鹿になって欲しい。
バンコクの旧市街ウォンウェンヤイ出身、インディペンデントでDIYな活動を行うミュージシャン、音楽プロデューサー、スケーターで元暴走族。Juu(ジュウ)の通り名で知られているが、ソロの正式名はこのJUU4E(ジュウフォーイー)となる。タイの伝説的レゲエ・バンド、4E Rastafariのメンバーであり、のばし続けるトレードマークのラスタ・ヘアーそのままのチューンが多いが、実はダブルミーニングなリリックを特徴とする社会派ラッパー。タイ語、英語、クメール語、日本語、JUU4E自身が作ったno languageでラップ可能で、プムプワンやチャーイ・ムアンシンといったルークトゥン歌手のフロウをラップ化したり、タイの古典文学や詩を引用するセンスは誰も真似できない。Anderson .Paakと共演し、Yellow Fang(日本でも人気のタイのインディー・バンド)やTwopee Southside(タイNo.1のスキルを持つラッパー)といったアーティスト達からジャンルを越えてリスペクトされ、Joey Boyにも一目おかれている存在だ。ティーンが熱狂するYoung Bong(タイの2人組ラッパー)はジュウの弟分。フィジカル・リリースほぼ無し、サブスク無しという彼の作品はYouTubeならぬ<JUU Tube>で公開中。「グッチの鞄もコンビニの袋も一緒」「ランボルギーニより自転車がクール」等々口から出てくるのはキラー・フレーズばかり。謙虚で非常に腰が低い好漢。最近はヤン富田に夢中でインスト音源もリリースしている。
EM Records (Eel's Bed Music)