歌詞

午前9時7分、従事する渦実区センターの上長より、

「本日をもって、本センター商品の職員配給を停止すること」

「今月末、本センター商品の一般配給を停止、ならびに渦実区センターを含めた全国のセンター関連事務所を閉鎖すること」

が通達された。

第2次嘉楠戦争の影響によって、商品の生産が難しくなったことが要因だそうだ。

あまりにも突然の通達に周囲の職員は騒然としており、

うち大半を占める被験職員からは、

幸癲の症状悪化を危惧する声が飛び交った。

私自身も被験職員の1人であり、その不安は実に大きいが、

対症療法として挙げられている海水の多量摂取は行わないことにした。

家族には申し訳ないが、

残された余生の中で、

これが私の行える最初の贖罪だ。

この手記は、以後数日間にわたる私の生活と病態の模様を記録し、

私自身の備忘を目的とするとともに、

幸癲治療の発展を願って認めるものとする。

昨日の通達から早くも、全国的なセンター関連事務所の撤去、取り壊しが始まっているが、

我々の居住する渦実区の住宅寮も例に漏れていない。

住宅寮利用者は続々と転居準備を始めており、

かくいう私も取り急ぎの身支度を行なったところである。

しかしながら、

他の転居準備者によって各自荷物の詰められた段ボールが住宅寮の廊下に出されたまま、

なかなか回収されていない状況が目につく。

全面閉鎖までに彼らの転居は間に合うのだろうか。

それはさておき、住宅寮から退去する際、

管理者の提示する誓約書へのサインが必要とのことであるため、

明日朝から私は程麻区の管理事務所へ向かう予定である。

［病態］

センター商品の非摂取から約18時間が経過している段階にあるが、

軽い息苦しさ、腕の第四関節に断続的な痺れを感じている。

明日も引き続き、経過を観察する。

この手記が見つかる頃にはもう

私は私じゃない何かだろう

与されただけの幸せに

甘んじた頽落の報いだ

エイデイバイエイデイ ずれていく

エイデイバイエイデイ 変わっていく

この手記が見つかる頃にどうか

幸せが「幸せ」であるように

午前9時39分、住宅寮の退去に伴う誓約書を提出すべく、程麻区の管理事務所に到着した。

受付を済ませ、職員から受領した誓約書にサインを施し、提出先である"対応室"という部屋へ入室した。

室内は異様な程に白く眩しく、待ち構えていた職員の溌剌とした案内を受け、奥へ続く灰色の門扉へ誘導された。

門扉の前で案内を受けている間、部屋の向こうから微かに、

ごぉうん、ごぉうん、と鈍く重たい機械音が聞こえた。

声高に案内を終えた職員が、張り付いたような笑顔を浮かべて扉を開ける間際、

彼の謬塞にぽっつりと小さな穴が空いていることに気がついた。

どす黒い嗚咽が、腹の底から喉を走る。

瞬間、私は門扉から踵を返し、入って来た扉の方へ一目散に引き返した。

何か、大きな何かが、きりきりと私の身に迫っている気がした。

やはり、商品開発は間違っていた。

我々は許されてなどいない。

許されてはならなかったのだ。

［病態］

センター商品の非摂取から約36時間が経過しているが、

酷い息苦しさと体全体に軋むような感覚があり、平衡感覚もやや乱れている。

今のところ、自我や言語能力の方に障害は見られない。

昨日のことと現在の病態があって、私は決行を急いだ。

午前12時50分、安宮区のセンター本部に到着した後、裏口から侵入して5階の放送室へ向かう。

来客用の案内板情報を頼りに、おぼつかない足取りを進め、ようやく放送室の扉の前へ辿り着いた。

扉からはセンター職員の放送音声が漏れ聞こえてくる。

センター職員として従事した数年間、不審に思われる点はいくつもあった。

しかし、既にセンター商品への依存を強めていた私は、組織に対する抵抗はおろか、気休めの愉楽に懐柔され、

自身の呵責をひた隠すように淡々と一般配給のための研究と生産を続けた。

紛れもなく、幸癲被害の甚大化を招いたのは我々自身であった。

この手記を認めるのは、今日で終わりになるだろう。

午後1時2分、扉の取手に手をかけた。

これが私の行える最後の贖罪だ。

この手記が見つかる頃にはもう

私は私じゃない何かだろう

与されただけの幸せに

甘んじた頽落の報いだ

エイデイバイエイデイ ずれていく

エイデイバイエイデイ 変わっていく

この手記が見つかる頃にどうか

幸せが「幸せ」であるように

しあわせを