Lyric

美しい彼女は思い出してる。

幼いころ亡くした両親を。それはとても悲しい出来事で、

奇跡的に彼女だけ生き残った。

養女として引き取られ、この家に住んでいる。

でも、でもね。彼女は知らない。悲しい記憶は、ロムに入っている情報だとは。

彼女は、去年の夏に発売された新製品のアンドロイド。

美しい彼女は悲しんでいる。

育て親はいい人達だけど、亡くなった両親を思い出す。

今も毎夜、寝室で泣いている。

涙は枯れてしまって出てこない。悲しいのに。

でも、でもね。彼女は知らない。スペックの中に涙を出す機能は含まれてない。

彼女は、去年の夏に発売された新製品のアンドロイド。

美しい彼女は今悩んでる。

おとなりの青年に恋してる。優しく礼儀正しい好青年。

あいさつなど片言をかわすだけ。

なぜだかそれ以上は話が続かない。

でも、でもね。彼女は知らない。本当のところ彼もアンドロイドで、オーエスが違う。

彼女は、去年の夏に発売された新製品のアンドロイド。

美しい彼女は　とまどっている。

おでこから小さなネジが取れた。肌色の変なネジ。目の前に、

「サービスセンター」　の文字が点滅する。

おとなりの青年たら、彼女のこと子ども扱い。

彼女は思わず彼の顔ひっぱたいた。なぜあんな事したの？　もうおしまいだわ。

彼女は、去年の夏に発売された新製品のアンドロイド。

美しい彼女はいらついてる。

全ての原因はあの出来事。犯人の男は無罪だって。

懲らしめてやる。でも彼女は知らない。

いたずらが大好きなアンドロイド設計者。

過去の記憶デザインする時、犯人の顔に部長の写真をコピペした。

彼女は、皮むき途中のリンゴ丸ごと握りつぶし、目を輝かせた。