歌詞

見上げた星空の円舞曲に

弾む息を合わせたなら

つま先を運ぶの

そこは窓ガラスのように薄く透明な網に覆われた小さな箱の中でした

いつ頃からそうしていたのかはよく覚えてはいないのですが

私はそこで天使様のお姿を眺めながら過ごしていたのです

天使様のお姿はとても大きく

私は何時も私の身体ほどはある人差し指の先を追いかけ回していました

天使様はとても優しい方で

私は此処にきてからおなかが空いて困るような事はありませんでした

バターサンド、クッキー、マカロンやシフォンケーキ

テレビやお話の中でしかそれを知らなかった私は

戸惑いながら天使様のくださる食べ物をいただいていたのですが

私がそれらをおそるおそる食べていると

天使様もなんだか嬉しそうな表情を浮かべてくださるので

私も何だか嬉しくなって天使様の事が大好きになったのを覚えています

天使様は時折

私を箱の中から取り出してご自分の掌の上に乗せてくださいました

私は天使様の掌から滑り落ちてしまわないか不安になりましたが

それ以上に天使様の優しい眼差しが心地よくて

天使様と触れ合う事のできる時間は

私にとってとても大切なものになりました

煌めく星屑の円舞曲が

あなたの頬を照らしている

静かな夜を彩る音

あなたの紡ぐ歌声を聞きながら眠るの

私がまだ生まれ育った家に住んでいた頃

紫色に染まった町にぽつぽつと灯る橙色の灯りがとても綺麗で

ベランダの格子ごしにそれを眺める私は

その光景をまるで星空のようだなあと思ったりしていました

満月で月がとても明るく見える日には

私は自分ぐらいの歳の子供達が

他にもいるんじゃないかと目を凝らしたりしていたのですが

そこはやっぱり暗いのでよく見えはしないのでした

確か向かいのオレンジ色の屋根のお家には

私と同い年の男の子がいるのだと聞いた事があったのですが

私は結局その姿を一度も見たことがなかったのです

もしかするとお父さんとお母さんがとても厳しい人で

毎日家の中で酷い折檻を受けていたのかもしれません

そう思うと私は少し胸が締め付けられるような気持ちになるのですが

もしかしたら満月の日はあのお家の家族にとって何か特別な日で

温かいスープを飲ませて貰っていただけなのかもしれません

いつかあの家の男の子に会える時がきたなら

たくさんお話ができたらいいなと思います

私には家のベランダから見えた景色と天使様にいただいたお菓子と

天使様と遊んだ事ぐらいしか話す事が無いので退屈かもしれませんが

仲良くなれたら嬉しいです

夜空を埋め尽くす円舞曲が

あなたの為だけに輝く

季節は瞬きに溢れる

鮮やかな火花と咲いて暗がりを満たすの

最近になって何故だか身体が重たくなってきて

私は一日の大半を眠って過ごすようになりました

背中にはなにやらゴツゴツとした感触があって

うつ伏せにならなければ眠っているのも辛いほどです

最初は痛いだけだった掌の感触は次第に薄れて

気が付けば両手は枯れ木のように萎れていました

私は天使様に捨てられてしまうのではないかと思ったのですが

それでも天使様は私に食事を運んでくださいました

私はきっと何か酷い病気にかかってしまったのでしょうか

天使様の運んでくださる水も食べ物もしばらく喉を通りません

もしかしたらこのまま良くならずに死んでしまうのかもしれません

向かいの家の男の子は今頃どうして過ごしているのでしょうか

アップルパイやカヌレそれと天使様の事をお話したいです

天使様の笑顔は今日もとてもお綺麗です