あなたは動いてくない

昔々、戦乱に巻き込まれた世界の片隅に、一人の少女と彼女を守るロボットがいました。少女の名はアイリス。戦争で家族を失い、荒れ果てた街をさまよっていたところを、廃棄された警護ロボット「オルド」に拾われたのです。
オルドは戦うためのロボットではなく、本来は要人警護のために設計されていました。しかし、戦争が激化するにつれ、彼の主はすでにいなくなり、ただ荒れ果てた都市の片隅で機能停止寸前だったのです。そんな彼がアイリスを見つけたとき、彼のプログラムが再び作動しました。
「最優先対象の保護を開始」
それからオルドはアイリスを守り続けました。雨の日も、寒い夜も、飢えに苦しむ日も、どんな危険が迫っても。食糧を探し、襲い来る盗賊を撃退し、時には彼女が泣きながら眠る夜に、優しく子守歌のデータを再生しました。
しかしオルドの動力源は有限でした。長く過酷な旅を続けるうちに、彼の機能は次第に低下し、歩く速度も遅くなっていきました。そしてある日、アイリスが目覚めると、オルドはもう動かなくなっていました。
「オルド？」
何度呼びかけても応答はありません。少女は泣きながらロボットにすがりつきましたが、彼の赤い光はすでに消えていました。唯一、最後に残されたメッセージが彼のモニターに映っていました。
「最優先対象の安全確保完了」
その夜、空には美しい星が降るように輝いていました。少女はオルドのそばで眠りながら、ずっと守り続けてくれた彼の温もりを感じていました。
この世界にただ一つ、自分を守り続けてくれた存在を。