※ Preview may take some time.
※ Preview is not available for songs under copyright collective.
夜風に身を任せて街を走っていると、不意にそれが聞こえてきた。
あの人の声。
あの人が放った言葉。力任せに、まるで刃のように叩きつけるようにして言ったあの言葉が、いつしか××の胸の奥に根を張り、じわじわと侵食しながら、やがてその瞳から色を奪っていった。
外から押しつけられるように、少しずつ自分が自分でなくなっていく感覚。わかるだろうか。
溺れていくときのあの感覚に似ている。息が詰まり、胸の奥が重く塞がれ、喉には大きな空気の塊がずっと居座っているような——そんな感覚が、静かに、でも確実に積み重なっていく。
そしてそれは、水面下で静かに爆発した。
弾けるのではない。胸につっかえていたものが音を立てて砕けるのでもない。シュワ、と空気が抜けていくように、存在感だけが消えていく。そしてそれと同時に、ギリギリのところで張り詰めていた糸が、音もなく切れた。
そうして××は、解放された。
エンジンが唸りを上げて再び加速する。急な発進に首がぐらりと揺れ、体の重心が後ろへ引っ張られる。とっさにしがみつきながら、ふと顔を上げると——視界いっぱいに、星空が広がっていた。
雲ひとつない夜だった。銀色に瞬く星々が、走るたびに少しずつ輝きを増して、××の視線を引き寄せて離さない。
あれは、何の星だろう。
——いや、オリオン座か。小学校のとき、理科の時間に習った気がする。
そういえば、修学旅行で見た星は別格だった。山の空気の中で、あれほど星が近く見えたことを、今でも不思議と覚えている。
生ぬるい夏風が吹きつけ、時折すっと温度を落として、服の隙間に滑り込んでくる。
「おい」
「あ?」
「ヘルメット」
信号で止まった短い間に、そいつは無言で××にヘルメットを投げてよこした。
忘れてた。
××はきつく締まったヘルメットのスポンジが頭を圧迫するのを感じながら、ゆっくりと被る。その重みとともに、不意に今朝の新聞で見た事故のニュースが脳裏をよぎった。
走りながら、××は静かに星と会話を続ける。
逃げたとて、行き先なんてあるのだろうか。
解放されたこの自分が目指す先に、どんな自分の姿があるのだろう。
外圧に屈しない、頑固なままの自分か。それとも再び世間の波に飲み込まれていく自分か。
——否。そうならないために、全てを捨ててきた。
今まで手にしてきたもの、全部。もう何もかもがどうでもよくなって——いや、違う。どうでもいいわけじゃない。
そんな諦めを、これからの自分に持ち込むつもりは、ない。
「見えてきたぞ」
前方からの声に、××はそっと耳を傾ける。つられるように視線も進行方向へ向いた。
ああ。
吐息に近い相槌が、夜風の中へ溶けて消えていく。
バイクがわずかに加速する。気がつけば、並走していたはずの車たちの姿はもうどこにもない。夜道を、ただ二人だけが走っていた。
ああ。そうだ。
進むか。
——進むしかないんだ。
nokal