もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
密閉された体育館の中で、
生徒らがそれぞれ
一羽ずつ持ってきた鳩を
一斉に解き放ったので、
真っ白な大量の鳩たちは
錯乱してしまった。
生徒たちには
一人一つずつ自分の係があって、
僕の役割は鳩がした糞を拾って
その持ち主のもとに届ける、
というものだった。
三百人超の落ち着いていられない
子供がひとところに集合し、
鳩だって四方八方に
乱れ飛んでいるのだから、
糞の数も計り知れない。
とんでもない重労働だ。
でも僕はみんなが
授業で習ったお礼の仕方で
「ありがとう」を言ってくれるのが
嬉しくて、鳩の肛門を凝視して、
手のひらで直接受け取ったり、
床に落ちてしまったものは、
形が崩れないように
指の先で丁寧につまんで、
持ち主のもとに返しに行った。
友達の西里くんは
誰がどの鳩の持ち主かを
把握しておく係で、
僕に報告をすることに
なっていたのだが、
彼はお父さんの人差し指の行方を
気にかけていたから、
ほとんどうわの空の状態で、
誰でも分かるミスを連発していた
(例えば宮本くんの鳩の糞を
岩代さんのものとか言ったり。
どう見たって違うのに)。
そんなだから僕もミスを連発して、
たくさんの違う糞を
みんなに渡してしまったのだけれど、
みんなはそれでも嬉しそうに
「ありがとう」
を言ってくれるから、
僕もとてもとても嬉しくなった。
そんな怠惰な西里くんが
唯一熱心に観察していたのは
村田さんの鳩だった。
村田さんの鳩は大人しくて
ほとんど村田さんの側から
動かないから、
見張っておく必要なんか
全くないのに。
村田さんは
昨日転校してきたばかりで、
彼女は壇上で光り輝く係だった。
身体から眩い光を放出して、
鳩が逃げないように
閉めきった体育館を
明るく照らしていた。
隣には弟が
気恥ずかしそうに立っていて、
消しごむくらい小さくなっていた。
西里くんは村田さんと
家が近いらしくて、
僕に報告をするついでに、
弟が消しごむくらい小さくなる係に
抜擢された理由を耳打ちしてきた。
僕は急に腹が立ってきた。
あんなに係の仕事が
雑でもなんとも思わなかったのに、
弟が消しごむくらい小さくなる係に
抜擢された理由を知っているのには
腹が立った。
全て馬鹿馬鹿しくなって、
糞を拾うのをやめて、
僕も村田さんを
凝視することにした。
僕が仕事を放棄すると、
体育館は至るところが
段々と糞だらけになってきた。
猫の世話を放棄して
トキソプラズマ症で死んでしまった
従兄弟のことを思い出して
怖くなったけど、
それでも僕は凝視した。
村田さんは細胞の一粒一粒から
するどい光を放ち続けている。
他の生徒とはまるで違って静かに、
とても静かに佇んでいる。
しばらくして生徒の中で
不調を訴えるものが出てきた。
放置された鳩の糞が乾燥して
肺に入ったことが原因だった。
すると今まであれほど
僕に優しかったみんなが
僕を非難し始めた。
それでも僕は構わなかった。
おげえげげと音を発しながら
西里くんが僕の脚に
ゲロをひっかけた。
自分の吐き出した汚物の中から
父親の人差し指を
つまみだしたらしく、
彼だけは喜んで僕に
「ありがとう」
を言った。
僕は凝視を続けた。
ずっと彼女のことを見続けた。
「ジョーくん、目が濁ってるよ」
という声が聞こえた時には、
僕は日光網膜症になっていた。
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
もうどうなってもいいや
(好きじゃないから
こっちを見ないで)
- 作詞
高田丈
- 作曲
柴原世那, 高田丈
こけつまろびっツ の“鳩”を
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こけつまろびっツ
アーティスト情報
こけつまろびっツ
50年代〜70年代のファンクやロックンロールを下地としつつもそれが妙な日本語と接続されるので正常な意味づけのぶっといレーンからはズレちゃっていて、でも段々そういうことを許せるようにはなっている。 それは音を出すことがご飯を食べることや眠ることとちょうど同じくらいの強度で迫ってくるようになることで、がんばってシステムの外へ這い出ていって自分たちだけのシステムを試してみるみたいなこと。 そんなこんなで都内路上やライブハウスにてなんとか奮闘中。ポエトリー・ファンク・ロックバンド、こけつまろびっツ。
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