

宋(そう)の御代、眠らぬ都・汴京に、金維厚(きんいこう)という男あり。
爪に火をともし貯め込んだ、八つの大きな銀の塊。
古希の夜、枕元に立ったのは……白衣に赤い帯締めた、八人の男たち
[銀一]:旦那様、長らくお世話になりました。埃も払っていただきましたな。
しかし! 蔵に眠って日の目を見ぬは、石ころ同じでございます
[金老人(呻き)]:ぐぬぅ……わしの宝が……
[銀二]:灼熱の火で溶かされて、俺たち兄弟一つになった。
だが! 旦那の懐(ふところ)あったかけれど、世間に出なきゃ冷たいままだ」
[金老人(悲痛)]:そんなこと言うでない……!
[銀三]:この赤い組紐、綺麗な飾りと自慢して撫で回しておいででしたね。
ところが! 我らにゃそれが、ただの『呪縛』の鎖でした
[金老人(呆然)]:可愛さ余ってのことじゃ……
[銀四]:息子たちに残すはずだと、今夜宴でおっしゃいましたな。
それでも! 天の台帳見てみれば、我らの主は王(おう)とある
[金老人(まよい)]:待て! 王とは誰だ!
さらば、さらば、金維厚(きんいこう)
袖の綻び(ほころび)、運の尽き
銀は天下の回りもの
止まれば腐る、流れて生きる
我らは行くぞ、天命のままに
[銀五]:泥棒避けにと、毎晩枕元に置いて守ってくれましたね。
とはいえ! 貴方様こそ、我らを牢屋に閉じ込める看守でした」
[金老人(落胆)]:守り神のつもりでおったのに……
[銀六]:百両の重み、我らはずっしり肩が凝るほど重うござんすよ。
けれども! 旦那のその『欲』の重さには、到底敵いやしません」
[金老人(息切れ)]:はぁ、はぁ、苦しい……
[銀七]:毎晩毎晩、我らの肌をねっとりと愛撫してくれましたなぁ。
とはいうものの! あの手つき、愛着というより、ただの執着
[金老人(泣)]:わしの生きがいじゃった……
[銀八]:七十年、食わず飲まずで一生懸命働いたことは認めますよ。
それにもかかわらず! 貴方の手には、砂の一粒すら残らない!
[金老人(心なし)]:あぁーーーっ!!
夢は醒めた。銀は消えた。
探しに行った王の家、あるはずのない宝がそこにあり。
情けで貰った三両さえも、綻びた袖からこぼれ落ち、王の門へと舞い戻る。
有るも定(さだ)め、無きも定(さだ)め。
あぁ、天の配剤(はいざい)、計り知れず……
- 作詞者
光闇居士
- 作曲者
光闇居士
- プロデューサー
光闇居士
- その他の楽器
光闇居士

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南柯の銀~八つの別れ節~
光闇居士
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南柯の銀~八つの別れ節~ (Take 2)
光闇居士
原作:光闇居士『初刻拍案驚奇講談』より「金老人の八つの銀錠」
「貯め込んだ金(カネ)が、挨拶にやってきた。『旦那、お世話になりました』と。」
物書き師・光闇居士(Twilight Master)が贈る、奇想天外な歴史講談エンターテインメント。
一生をかけて八つの銀塊を貯めた守財奴・金老人。彼の七十の祝賀の夜、銀たちはなんと「人の姿」をして夢枕に現れ、一斉に別れを告げに来た!?
「しかし」「だが」「それにもかかわらず」――。
銀一から銀八まで、擬人化された八人の兄弟が放つ痛烈な皮肉と、翻弄される老人の悲哀。
明代の荘厳な音色に乗せて贈る、笑って泣ける人生の教訓歌。貴方の財布の中身も、実は夜な夜な逃げ出す相談をしているかもしれません……。
アーティスト情報
光闇居士
これはもの書きのアカウントになります。https://mypage.syosetu.com/667265/ 筆者は本職の傍ら創作を続けています。常に歴史、ディテールを第三者の目線から俯瞰できるよう気にしながら創作を続けています。情景やイメージを念頭に描きながら文書や言葉を付け加えていく作業の連続ですが、良い作品に仕上げていく事が理念であり、筆者としての社会的責務を全うできなくして価値はないと考え「剣よりペンが強し」を信条としています。 音楽(イメージサントラ)については自分の作品から生み出されるもの限定とする。
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