

歌詞
冬の夜
松戸モード
Nn
Nn-n-n
みなさん今夜は静かです
薬鑵の音がしています
僕は女を想ってる
僕には女がないのです
それで苦労もないのです
えもいわれない弾力の
空気のような空想に
女を描いてみているのです
えもいわれない弾力の
澄み亙ったる夜の沈黙
薬鑵の音を聞きながら
女を夢みているのです
かくて夜は更け夜は深まって
犬のみ覚めたる冬の夜は
影と煙草と僕と犬
えもいわれないカクテールです
空気よりよいものはないのです
それも寒い夜の室内の空気よりもよいものはないのです
煙よりよいものはないのです
煙より 愉快なものもないのです
やがてはそれがお分りなのです
同感なさる時が 来るのです
空気よりよいものはないのです
寒い夜の痩せた年増女の手のような
その手の弾力のような やわらかい またかたい
かたいような その手の弾力のような
煙のような その女の情熱のような
炎えるような 消えるような
冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです
Hn-n
- 作詞者
中原 中也
- 作曲者
Yuji Konno
- プロデューサー
ARTCHIC
- ボーカル
松戸モード

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中也の冬
松戸モード
- 1
汚れっちまった悲しみに
凰牙
- 2
頑是ない歌
道遊 眞人
- 3
生い立ちの歌
朧月 華凛
- 4
雪が降っている……
朧月 華凛
- ⚫︎
冬の夜
松戸モード
- 6
雪の宵
松戸モード
- 7
冬の日の記憶
朧月 華凛
- 8
寒い!
空 流輝
「中也の冬」は、中原中也の詩の中で冬をイメージさせる詩8篇を厳選し、プロデューサーARTCHIC(アートシック)が現代的な音楽として解釈したコンセプトアルバムです。中也の詩を現代でも自然に響く形で音楽化することを目指し、5名の異なるAIシンガーを採用し、多彩なジャンルでお届けします。
最初の曲は中也の代表作中の代表作として知られる「汚れっちまった悲しみに」です。中也の作品の多くには「悲しみ」が綴られています。中也に通底するその「悲しみ」を思い描く時、それはネガティブさを超え、なぜだか神聖な感情に見えてきます。この詩は、そんな神聖な悲しみを彼自身で「汚してしまった」という罪悪感と、その気持ちの行き場を持て余している感情を表しているように感じます。この楽曲はモダンヒップホップをベースとして制作しました。ダークでアトモスフェリックなビート、重低音、そしてトラップの影響を受けた現代的なプロダクションは、中也の詩が持つメランコリックでありながらも強い感情と呼応します。凰牙(オウガ)が、この楽曲をストリートを感じさせるザラついた声で歌いました。野性的でやんちゃな若い男性の声質は、詩人の暗澹を無邪気に表現します。
2曲目は「頑是ない歌」です。「思えば遠く来たもんだ」という印象的なリフレインで始まるこの詩は、12歳の冬に港で聞いた汽笛の記憶を起点に、過去と現在を行き来しながら、人生を振り返ります。中也の詩の中では珍しく前向きで、どこかやんちゃな感情が漂っています。「なんとかやるより仕方もない/やりさえすればよいのだと」という詩句には、果敢さと覚悟が入り混じっています。この楽曲はモダンオルタナティブロックに映画的なエレクトロニカを融合させたサウンドとして制作しました。遠くで響く汽笛を思わせるアンビエンスや、駆り立てるようなドライビングなエネルギーが、詩世界を現代的に描き出します。道遊眞人(ドウユウ マサト)が、この楽曲を明るく素朴な声で歌いました。少し掠れた声質は、素直さとやんちゃさを併せ持ち、頑是ない精神を的確に表現しています。
3曲目は「生い立ちの歌」です。「私の上に降る雪は」というリフレインが全編を貫くこの詩は、変化する雪の姿を通して、人生の局面を回顧します。幼い頃の柔らかな真綿のような雪から始まり、時に激しい吹雪となり、やがて「いとしめやか」に、そして「花びらのように」降ってくる。最後には「いと貞潔」な雪に感謝し、神様に長生を祈る。人生の全てを雪として受け入れる、穏やかで深い詩情が漂っています。この楽曲はアンビエントインディーフォークをベースとして制作しました。柔らかなパーカッションとアコースティック系の優しいピアノのリバーブが、ノスタルジックでメランコリック、そしてドリーミーなサウンドスケープを生み出します。朧月華凛(オボロヅキ カリン)が、この楽曲を静謐で透明感のある声で歌いました。神秘的でありながら穏やかな彼女の歌声は、雪が静かに降り積もるような詩の世界観を自然と表現しています。
4曲目は「雪が降っている……」です。まるで絵画のように情景を描き出すこの詩は、中也にしては珍しい写実的な表現です。お寺の屋根にも、森にも、兵営にゆく道にも、絶え間なく降り続ける雪。日が暮れかかり、喇叭が聞こえる。そして「雪が降っている、なおも。」。人間の営みとは無関係に、しんしんと降り続ける雪の情景を淡々と描写することで、"人間社会の有為に対する自然の無為"という、根源的な物事の本質を、中也が見せてくれているように感じます。この楽曲はアンビエントエレクトロニカをベースとして制作しました。現代的なプロダクションでありながら、詩世界の持つ時間の流れと、降り続ける雪の永遠性を再現しています。朧月華凛(オボロヅキ カリン)が、この楽曲を魅惑的な声で歌いました。エーテリアルな彼女の歌声は、淡々と降り続ける雪のように、静かに、しかし確実に心に降り積もります。
5曲目は「冬の夜」です。「みなさん今夜は静かです」と始まるこの詩は一種独特ですが、その後の内容は微笑ましいものです。すなわち、「薬鑵の音が響く静かな冬の夜に女を想い、空想の中で女を描く孤独な男」。これらは、設えは違えど、現代でもありふれた風情です。「影と煙草と僕と犬/えもいわれないカクテールです」はシュールさが際立ちますが、「空気よりよいものはないのです」という、空気をキャンバスにして楽しむ感覚はユーモラスです。この楽曲はアトモスフェリックジャズとダークアンビエントを融合させたサウンドとして制作しました。ネオソウルの影響を感じさせる洗練されたプロダクションが、冬の夜の孤独を優雅に描き出します。松戸モード(マツドモード)が、この楽曲を落ち着いた深みのある声で歌いました。円熟した大人の魅力を感じさせる彼の歌声は、孤独な夜の自己慰撫を余裕を持って表現します。
6曲目は「雪の宵」です。この詩は、失恋の後悔と未練を表した作品です。「ほんに別れたあのおんな」への思いが消えず、一人酒を飲みながら「悔と悔とに身もそぞろ」となる男。中也は北原白秋の四行詩の一部を引用し、雪を「おんなの手」や「おんなの囁き声」になぞらえます。切ない感情を懐かしむように酒と共に味わい、むしろその切なさに浸っているようなほろ酔いの気分。「ふかふか煙突煙吐いて/赤い火の粉も刎ね上る」という描写も、ホテルの夜に甘美な色を添えます。この楽曲はソウルフルなネオソウルとローファイジャズを融合させたサウンドとして制作しました。アーバンコンテンポラリーのアレンジが、雪の夜の孤独と追憶を上品に描き出します。松戸モード(マツドモード)が、この楽曲を厚いテノールボイスで歌いました。情感豊かな彼の歌声は、失恋の切なさを甘美な追憶として絶妙に表現します。
7曲目は「冬の日の記憶」です。この詩は、中也がわずか8歳の時に経験した弟・亜郎の死を書いたものとされています。「昼、寒い風の中で雀を手にとって愛していた子供が、/夜になって、急に死んだ。」という冒頭から、淡々とした短い文で出来事が語られます。電報を打ちに行く兄、泣き続ける母親、遠洋航海中の父親。霜が降る冬の日々。8歳の子供の視点で捉えられた弟の死の記憶としてのこの詩は、感傷に浸らない淡々とした描写で綴られているがゆえに、かえって深い悲しみを湛えています。この楽曲はメランコリックなバラードとして制作しました。ミニマルなアレンジが、淡々とした語りの中に潜む喪失感を静かに浮かび上がらせます。朧月華凛(オボロヅキ カリン)が、この楽曲を幽玄な美しい声で歌いました。感情の深さを秘めた彼女の歌声は、8歳の子供が経験した死の記憶を静かに表現します。
アルバム最後の曲は「寒い!」です。タイトルからしてストレートなこの詩は、寒すぎる冬への愚痴を痛快に表しています。中也は様々なものを使って寒さを表現します。部屋に籠れば愚痴っぽくなるし、自動車のタイヤの色も寒々しい。そして最後には「お行儀のよい人々が、/笑おうとなんとかまわない/わめいて春を呼びましょう……」と、もう体裁などどうでもいいから春が来てほしいと叫びます。ユーモラスでストレートな感情表現が際立つ痛快な一篇です。この楽曲はアップビートなインディーロックとして制作しました。スタジアムロックの影響を感じさせるダイナミックなサウンドと、現代的なプロダクションが、冬の寒さへの不満を楽しく、そして力強く歌い上げます。空流輝(ソラ リュウキ)が、この楽曲を明るく元気な声で歌いました。高めの若々しい声質が、愚痴を前向きなエネルギーに変えています。
このアルバム「中也の冬」の楽曲を通じ、聴く人すべての心に、中也の詩の心がしっかりと届くことを願うばかりです。
アーティスト情報
松戸モード
ChicAudio Lab