ヤギのおかあさんは
ぱんぱんにふくれた
オオカミの腹を割いて
子どもたちを取りだしました。
それから
塩を
オオカミの腹のなかに
つめこめるだけつめこみました。
花束をもらってからです。夜になると、十四のくちびるが、わたしの肌を、ついばみにくるのは。ずっしりと水気をふくんだ、十四輪のチューリップ。受け取りがたい祝福もあるとはいえ、花に・罪は・ないから、と、うっかり、かざった、それが、暗くなるとぬたぬた伸びてきて、鯉のくちびるをがらんどうに開き、眠るわたしの肩を、膝を、足の親指を、顎を、円さという円さを吸いにくる。そこではじめて、祝うことと呪うこととは同義であるという常識を、本当の意味でわかる・ことが・できた、飢えることも。飢えに喚ばれると皮膚はすぐに観念して、わたしを置き去りに、許してしまう。皮膚は叫ぶように、母乳のかわりに透明な血をにじませて、鯉の黄色いくちびるを、みすみすとしめらせる、土壌はますます肥沃に、鯉らはますます咲きみだれ、蒸されゆく寝室で、わたしは考えをあらためる——花に・罪は・ない? 罪にもしかたちがあるのなら、この腹をすかせた紡錘形、はうはうと喘ぐ生殖とその飾りが、もっともふさわしい。医者はパソコンの画面をみつめたまま答える、いいえ、罪は淫らさの氵でしょう。渇いているほうではない、潤ったほうです。あなた、眠りすぎではないですか。許すこととは目ざめていることですよ。非・睡眠薬をお出ししましょう。あなたと彼らにとって、あなたの乳が、ちょうどいい塩かげんになるように。それでかえって、なんだ、わたしだ、とわかる・ことが・できた。わたしが・子どもたちを・取り出すのだ。わたしの手を消化液に浸して——ヤギのおかあさんは、頭をひねりました。町へ出かけていって、ありったけの塩を買ってきました。その塩で、ベッドの上に、自分の背たけと同じくらいの、円い丘をこしらえました。
(ほら、
わたしの足は白いだろう。
おまえたちの、
おかあさんとおんなじに。)
はたして夜、十四輪の鯉らは、食べた、食べた、墓のようにこんもり盛られた塩を、歯も舌もないくちびるで乱暴に削りとり、いつまでも血の出ないこと、食べれば食べるほど渇いていくことにいらだちながらも、食べた、食べた。塩の丘が、ざらりざらりと減っていくほどに、わたしは時計のなかへ目ざめていった。さあ、さあ、さようなら、奪われることと与えることとの混同、乳にまみれて死んでいったカモノハシたち、サボテンたち、円いことみな憎い朝、どんな飢えも、肉によって、満たされなければならないという誤謬。食べた、食べた。わたしはいまはじめて、ひとつも痛くない。おはよう。
朝です。
ヤギのおかあさんは
ぱんぱんにふくれた
チューリップの根っこを割いて
きれいな塩を取りだしました。
それから
オムレツにかけて
ぺろりと食べました。
めでたし
めでたし。
- 作詞
Kujira Sakisaka
- 作曲
Yuya Kumagai
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- 1
una
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- 2
長すぎる晴れ
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- 3
セオリー
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- ⚫︎
あなたの・母親では・ない
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- 5
意味のことを話してくれ
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01-284-9
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- 7
メイデイ、メイデイ、メイデイ
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くるぶしに波を引っかけて歩いていると
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サテライト
Anti-Trench
- 10
0675-15-983
Anti-Trench
- 11
squu
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アーティスト情報
Anti-Trench
Anti-Trench 詩人・向坂くじらとGt.クマガイユウヤによる朗読ユニット。2020年1stAlbum「ponto」「ŝipo」リリース。 向坂くじら 詩人。第一詩集『とても小さな理解のための』(しろねこ社)。朝日新聞、共同通信社配信の各地方紙、他雑誌などに寄稿。教育の分野でも活動し、各所で詩の出張授業を実施するほか、2022年埼⽟県桶川市にて「国語教室ことぱ舎」を自ら創設する。 クマガイユウヤ ギタリスト、コンポーザー。 セッションミュージシャンとして幅広くジャンルレスに活動するだけでなく、ソロプロジェクト・THE NAAVなど、各所で精力的に活動中。BMSG所属アーティスト・Novel Coreのバンドメンバー。
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