Lyric

芸術家がきみをさがしている

しかしきみはそこではない場所で

いままさに息を吐ききるところ

きみは動きまわる

信号のない道をわたる

歩道橋には

解放せよ

解放せよ

と書かれてある

あの鳥居は

あしたも血が流れることを

さもなくばつつがない流産を

のぞむために建てられた

人工衛星がきみの座標を見失うと

きみの存在が地図のうえで明滅する

冷えた水をもとめれば

知らない国のひとが

よく知ったことばを

知らない舌に乗せて

きみの新しい名前を

きみの新しい名前を

芸術家がきみをさがしている

いつも明滅するきみの影を

なでてやりたくて線を引く

しかしそれはきみではない

ひとたちは

かならず右足から階段をのぼる

ひとたちは

緊張するとまばたきが増える

ひとたちは

上から下へ蝶結びをする

ひとたちは

両手をあわせて水をすくう

ひとたちは

どこにでもいるとおもわれている

ひとたちは

自分の母親に会いたくないとおもう

ひとたちはときどき死ぬ

芸術家がきみをさがしている

しかしきみはそこではない場所で

いままさに目を伏せて

きみは動きまわる

向こうの角を右に曲がる

高電圧の危険を知らせる

すでに使われなくなった発電所の看板

歓声と怒鳴り声とが

ほとんどそっくりに聞こえる

あの人はすがたが見えなくなった

あの人はむなしくなった

顔立ちがまるで変わった

あの人は

そうは見えなくても

ずっと逆立ちをしている

また土がふるえる

きみがほどけて土にもどる

会議場に羊の群れがなだれこむ

あたりいちめんが畑になる

芸術家がきみへうったえる

「きみの新しい名前を聞きたいために

おれは安心を売って白紙を買った

花を売ってペンを買ったのだ」

しかしきみはそこにはいない

ひとたちは

かならず左足から階段をのぼる

ひとたちは

緊張するとまばたきがなくなる

ひとたちは

下から上へ蝶結びをする

ひとたちは

おちる水にくちびるでにじりよる

ひとたちは

どこにもいないとおもわれている

ひとたちは

自分の子どもに会いたくないとおもう

きみの新しい名前を

きみの新しい名前を

ひとたちは

かならず右足から階段をのぼる

ひとたちは

緊張するとまばたきが増える

ひとたちは

上から下へ蝶結びをする

ひとたちは

両手をあわせて水をすくう

ひとたちは

どこにでもいるとおもわれている

ひとたちは

自分の母親に会いたくないとおもう

ひとたちは

ひとたちは

ひとたちは

ひとたちは

ひとりもきみのことを知らない