波羅葦増雲のジャケット写真

歌詞

頭の中の小説をそのまま海に流すように

ハハノシキュウ, 油揚げ

ここからは俺の話

舞台は都内のタクシー

東京で同じタクシーに乗る確率は宝くじの高額当選確率と同じくらいらしい

じゃあ、乗せた客が自分から波羅葦増雲を打ち明けてくる可能性はそれより高いのだろうか

低いのだろうか

俺は10年以上タクシードライバーを生業にしているが

波羅葦増雲を打ち明けてきた人間は二人だけいる

学校というやつは他人と共有しない秘密を作れだなんて口うるさく言ってくるんだと

ただまあ、学校ってのは不思議なもので、なんだもかんでも他人と共有しなきゃいけない強迫観念がよくないってことで、誰とも共有していないものを作らされるって話らしいけど、子どもたちはそうやって大人から強いられて作った秘密を本当の友達同士でだけ打ち明け合うんだって聞いた

ゴマを擦ったような本末転倒だ

友達なんかいなかった俺にとっては新鮮な視点だ

ただまあ、若さってのはそう一筋縄にはいかないもので、友達と共有する秘密を隠れ蓑にして、本当に誰とも共有しない秘密を作るんだそうだ

誰が名付けたのは知る由もないが、そんな二重底の秘密のことを波羅葦増雲と呼ぶ

人間ってのは不思議なもので、誰かと何かを共有したくてたまらなくなる時があるらしい

俺にはわからん

まるでアニメやドラマの最終回の感想を共有するかのように

複数の面識のない他人が、遠い目で見たら一人の人間に見えるように

そういう一体感に気持ちよさを覚えるんだそうだ

俺にはわからん

誰とも何も共有したくないからこの仕事を選んだと言ってもいい

他のドライバーとムカつく乗客の悪口を言い合ったりなんかしない

同僚が乗客から波羅葦増雲を聞いたなんて話は一度も耳にしたことはない

そして、俺はそんな誰かと誰かの間みたいなコミュニティに属したりなんかしていない

乗客からすればそんな俺が懺悔室の神父のように見えたりするらしい

俺はこの回送の時間、誰も乗せていないタクシーの中ではブツブツとドライブレコーダーにしか聞こえない声で、今みたいに独白を呟いている

頭の中の小説をそのまま海に流しているような気分になる

だけど俺はそれが気に入っている

ナラティブに生きることこそが俺を俺たらしめている

これはそうだな、波羅葦増雲だ

身体の外に出すという快感は確かにある

違いがあるとすれば聞いてくれる神父様がいるかいないかだ

波羅葦増雲について語ってくれた乗客の女子高生の顔は今でもよく覚えている

彼女の波羅葦増雲は俺が予想だにしないものだった

それは

「あっ、どこまでですか?」

「駅ですね」

  • 作詞

    ハハノシキュウ

  • 作曲

    油揚げ

波羅葦増雲のジャケット写真

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波羅葦増雲

ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 1

    苦渋と辛酸がディープキスをしてる

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 2

    誰にも言えない秘密を作りなさい

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 3

    小学三年生から目線の高さが変わっていない

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • ⚫︎

    頭の中の小説をそのまま海に流すように

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 5

    内側とも外側とも言えない部分

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 6

    要点を挙げるとすれば

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 7

    見えないため息と見えるため息

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 8

    世界を救うような局面に立たされることがある

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 9

    運命の人

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 10

    沈黙の美しさについて

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 11

    こんなこともあろうかと

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 12

    波羅葦増雲

    ハハノシキュウ, 油揚げ

小説家としてもデビューしている異色のラッパーハハノシキュウと唯一無二のスタイルのビートボクサー油揚げによるアルバム。ビートボクサーとラッパーがコンビを組んでバトルをする破天共鳴によって生まれたユニット。アルバムを通して紡がれる世界観はラップとビートボックスというカテゴリーに含み切れない尖ったものとなった。ディープな世界に潜ってみてください。

アーティスト情報

  • ハハノシキュウ

    ・ハハノシキュウ ・無所属 ラッパー/小説家 ・青森県弘前市出身のラッパー/小説家。ラッパーよりも先に小説家を志していたが、新人賞の応募規定が面倒になり心が折れ、ラップを始める。MC BATTLEに出たことで本格的に活動を開始、なぜか一度だけポニーキャニオンからメジャーデビューを経験する。結果的にラッパーとして活動していたことが身を結び、2019年に小説家としてデビューする。

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  • 油揚げ

    ・油揚げ ・無所属 Human Beatboxer ・実験音楽にインスピレーションを受け、独自のテクニックやグルーヴ感を軸にしたBeatboxerとしては唯一無二のスタイルを確立している。 ライブパフォーマンスは基本即興で行われ、空間と調和しながらその場限りの音を奏でる。 ライブ、楽曲制作、バトル、イベント主催など幅広く活動中。

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