歌詞
内側とも外側とも言えない部分
ハハノシキュウ, 油揚げ
でさぁ、私の話の続きなんだけど
美術室のマネキンがまた盗まれたんだって
盗まれたことが薄まるような口調で顧問が「また買えばいいさ」と言った
何かしらの事件が起きた時、最初に反応を示すのは感情なんだけどさ
先生ってそういう意味じゃ大人っていうか、いちいち面倒くささみたいなものを顔にも態度も出さないで対応する
運動部じゃない文化部であることにコンプレックスを抱きつつもこういう場面で冷静に感情以外で話ができるようになることに私たち美術部は憧れつつあった
そういう技能を身につけることが球技大会で急に活躍することよりアドバンテージになると惑わしてくるからだ
マネキンを持ち去っていく風変わりな泥棒を捕まえることが諸々の根本的な解決策で、泣いてすがるような無意味なことはしたくない
排泄物みたいな感情を露わにするよりも顧問が言うようにとりあえず次のマネキンを買うという選択肢の方が心身で紳士的に感じる
でも、こんな風に感情の凸凹がサーキット場みたいに綺麗な平面を作っていると、それもそれで低迷してきて冷静になってくる
っていうのも、今日も私はノーパンで登校して放課後まで生き延びたわけだけど、最初に挑戦した時の新鮮味とか恐怖とか刺激とかそういうのが透明になってきて
はっきり言って慣れてきてしまってる
油断したら普通に床に落としたクロッキー用の木炭を拾ってしまいそうなくらいに
マネキンが盗まれることだって同じように慣れてしまってる
誰が何のためにこんなことをするのか想像したり推理したりするような高鳴りもないし、一番問題なのは犯人に対する怒りがわかないことだ
怒っても問題の解決にはならない
果たして本当にそうなのか
多少の自問自答があっても結局はスカートの中で拭き晒しになっている内側とも外側とも言えない部分が問題を小さくしてくれる
私は常々思う、この内側と外側が入れ替わってしまえばいいのに
そう言えば最初にノーパンで学校に来た時は鞄の中に保険として下着を忍ばせていたなと思い出す
二回目の時、意を決して下着そのものを家に置いてきたが、電車に乗るのが急に怖くなってタクシーで帰ったことを思い出す
その時の私は感情のコントロールが本当に下手で馬鹿みたいに舞い上がってしまっていたから、ついつい運転手に自分の波羅葦増雲を話してしまったことを思い出す
だって、誰にも言えないことを誰にも言わないままにしたら消えて無くなってしまいそうな気がしたから
でも、さっき言ったみたいに内側と外側が入れ替わったら結果は逆になると今の私は思う
誰にも言わないことが多ければ多いほど
尊ければ尊いほど
内側が外側になった時に美しく見えるんじゃないかと
「マネキンの話は一旦終わり、部活始めるよ、ほら、デッサンのモデル当番でしょ。早く準備して」
雇われ店長みたいな部長が段取りをする
私は自分がモデル当番だってことを完全に忘れていた
そして指示されたポーズをとりながら、他の部員に取り囲まれながら、今、自分がノーパンだってことを思い出す
- 作詞
ハハノシキュウ
- 作曲
油揚げ
ハハノシキュウ, 油揚げ の“内側とも外側とも言えない部分”を
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波羅葦増雲
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 1
苦渋と辛酸がディープキスをしてる
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 2
誰にも言えない秘密を作りなさい
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 3
小学三年生から目線の高さが変わっていない
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 4
頭の中の小説をそのまま海に流すように
ハハノシキュウ, 油揚げ
- ⚫︎
内側とも外側とも言えない部分
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 6
要点を挙げるとすれば
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 7
見えないため息と見えるため息
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 8
世界を救うような局面に立たされることがある
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 9
運命の人
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 10
沈黙の美しさについて
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 11
こんなこともあろうかと
ハハノシキュウ, 油揚げ
- 12
波羅葦増雲
ハハノシキュウ, 油揚げ
小説家としてもデビューしている異色のラッパーハハノシキュウと唯一無二のスタイルのビートボクサー油揚げによるアルバム。ビートボクサーとラッパーがコンビを組んでバトルをする破天共鳴によって生まれたユニット。アルバムを通して紡がれる世界観はラップとビートボックスというカテゴリーに含み切れない尖ったものとなった。ディープな世界に潜ってみてください。
アーティスト情報
ハハノシキュウ
・ハハノシキュウ ・無所属 ラッパー/小説家 ・青森県弘前市出身のラッパー/小説家。ラッパーよりも先に小説家を志していたが、新人賞の応募規定が面倒になり心が折れ、ラップを始める。MC BATTLEに出たことで本格的に活動を開始、なぜか一度だけポニーキャニオンからメジャーデビューを経験する。結果的にラッパーとして活動していたことが身を結び、2019年に小説家としてデビューする。
油揚げ
・油揚げ ・無所属 Human Beatboxer ・実験音楽にインスピレーションを受け、独自のテクニックやグルーヴ感を軸にしたBeatboxerとしては唯一無二のスタイルを確立している。 ライブパフォーマンスは基本即興で行われ、空間と調和しながらその場限りの音を奏でる。 ライブ、楽曲制作、バトル、イベント主催など幅広く活動中。