波羅葦増雲のジャケット写真

歌詞

波羅葦増雲

ハハノシキュウ, 油揚げ

これは俺の話だった

俺は高校二年の頃から目線の高さが変わってない

ちょうど心臓あたりの高さで目線が固定されてそのまま大人になった

車椅子がタクシーに変わっていた

一人称も僕から俺に変わっていた

俺は周りの人間からずっと頭がおかしいって言われてきた

同じ美術部だった女子が目の前で死んだ

先生は俺が殺したと思ってるけど

彼女は宇宙に潜るように目を閉じてそのまま戻ってこなかった

他の部員は「いつものやつが始まった」って冷笑しながら課題を終えて帰っていった

誰も俺に「一緒に帰ろう」なんて言わない

必然的に俺が一人残った

嘘みたいな話だけど彼女は艶美なポーズをとったまま死んでいた

遺書がない代わりにこちら側の想像力を残して

先生はそんな彼女を埋めた

練習を欠かさないプロのミュージシャンのように一音も外さずに慣れた様子で歌い上げた

細かいことは知らないが、彼女の死体が見つからなかったってことは、それだけ完璧なライブだったのだろう

小学三年生の時に精神的な理由で歩けなくなった

歩けないと思い込んでしまう病気なんだって

その思い込みは今も治ってない

俺はそれを人生のイップスと呼んでいる

それまでは何もかも全てが上手くいっていた

クラスで一番足が速かったし、友達も多かった

上手くいっていたものが全てイップスになったのだ

でも、先生に死体を運ぶのを手伝わされた時、普通に歩くことができた

あの日以来、その気になれば歩けるってことを知った

だから今も本当は歩けるとは思う

でも、歩けてしまったら、彼女の死体を埋めたと疑われてしまう

そんな感情が根底にあって

今も俺を歩かせない

何より、いざ歩き出そうと決心した時に本当に歩けなかったと考えることが怖くてたまらない

こんな身体でもタクシードライバーになれるシステムみたいなものがあって、俺はなんとか田舎を出て、東京の街で生かされている

今みたいに書きかけの小説を海に投げるような癖も、この仕事なら許される

しかも、それが俺の波羅葦増雲となって、一切のミスを犯さないブレーキの役割を果たしてくれている

いつか、贖罪の日が来る

そんな風に思いながら

この間乗せた女子高生は、死んだ彼女によく似ていた

車椅子を積んだ変わったタクシーだからってのもあるだろうけど

彼女は誰にも言えない波羅葦増雲を懺悔室の神父に話すように打ち明けてくれた

今時の女子高生にとって波羅葦増雲ってのは、犯罪とか性癖とかそういう類いではないらしい

彼女にとって波羅葦増雲というのは〝将来の夢〟なんだそうだ

一番なりたいもの、憧れている職業、そして目標

彼女にとってそれは誰にも言えない秘密より重いものなんだそうだ

  • 作詞

    ハハノシキュウ

  • 作曲

    油揚げ

波羅葦増雲のジャケット写真

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波羅葦増雲

ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 1

    苦渋と辛酸がディープキスをしてる

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 2

    誰にも言えない秘密を作りなさい

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 3

    小学三年生から目線の高さが変わっていない

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 4

    頭の中の小説をそのまま海に流すように

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 5

    内側とも外側とも言えない部分

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 6

    要点を挙げるとすれば

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 7

    見えないため息と見えるため息

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 8

    世界を救うような局面に立たされることがある

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 9

    運命の人

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 10

    沈黙の美しさについて

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • 11

    こんなこともあろうかと

    ハハノシキュウ, 油揚げ

  • ⚫︎

    波羅葦増雲

    ハハノシキュウ, 油揚げ

小説家としてもデビューしている異色のラッパーハハノシキュウと唯一無二のスタイルのビートボクサー油揚げによるアルバム。ビートボクサーとラッパーがコンビを組んでバトルをする破天共鳴によって生まれたユニット。アルバムを通して紡がれる世界観はラップとビートボックスというカテゴリーに含み切れない尖ったものとなった。ディープな世界に潜ってみてください。

アーティスト情報

  • ハハノシキュウ

    ・ハハノシキュウ ・無所属 ラッパー/小説家 ・青森県弘前市出身のラッパー/小説家。ラッパーよりも先に小説家を志していたが、新人賞の応募規定が面倒になり心が折れ、ラップを始める。MC BATTLEに出たことで本格的に活動を開始、なぜか一度だけポニーキャニオンからメジャーデビューを経験する。結果的にラッパーとして活動していたことが身を結び、2019年に小説家としてデビューする。

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  • 油揚げ

    ・油揚げ ・無所属 Human Beatboxer ・実験音楽にインスピレーションを受け、独自のテクニックやグルーヴ感を軸にしたBeatboxerとしては唯一無二のスタイルを確立している。 ライブパフォーマンスは基本即興で行われ、空間と調和しながらその場限りの音を奏でる。 ライブ、楽曲制作、バトル、イベント主催など幅広く活動中。

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