

もう随分、土地のない男だった
何年も土地に帰るのを見ていない
その男の父の行方は知れない
もう随分、土地のない男だった
こっくりした紺青の空は澄み
皸のできるほど乾いていた
古いフィルムのようにざらつき
少女みたく外をながめていた
景色は車窓の広さに収まる
点された車灯で一等暗くなる
にごったガラスの向こう側
かざす手、罅割れ赤茶けた
一人は車外で無線を取り次ぎ
一人は隣でペンを走らせる
この汚れた血がおびた熱で
オイルが燃え爆発すればいい
金属の細かい振動に目を伏せた
指先が痺れ、耳の裏が熱っぽい
机の短辺をつかんで叩きつけた
埃が舞い上がる、視界がまっ白い
光がゆっくりと固く透明になる
レースカーテンにその粒がからむ
ふくよかな胸が液体みたく流れる
男が女の背後から手を差し入れる
二十代早くに俺をつくった二人は
まだ四十にもなっていなかった
同級生のと比べ、随分若く見えた
もっと若いのは参観にこなかった
いつも何かが俺を、苛立たせた
日は空にあった、光で躰が痒かった
あの教室で俺は、荒っぽかった
風ひとつなく、熱れが立ちこめた
額をぬぐう、汗のにおいがする
男が女を後ろから姦っている
貸しビデオが居間で流れている
胸がゆれ、低く切ない声がする
大きな節くれだった手にばね指
溶接で顔が黒く日焼けしていた
いつか自慢げに力こぶをつくり
下ばきひとつで居間に立っていた
男が、大きな声でどなった
女の甲高い叫びがきこえた
物が投げつけられる音がした
何回も何回もそんなことはあった
男の遊びかそれとも金のせいか
原因など、どこにもない気がした
自殺するのと同じ切実さだけがあった
俺もそのようにして暴れたのだった
小さくうずくまっている躰を蹴る
女の髪をつかんでこすりつける
死ねという叫びをあげなくなった
瞬間、殺せという叫びに変った
唸るサイレン、辺りを染める赤灯
まるで男から受けた血のようだった
訪ねてきた警官は俺の服をめくると
それで後は二人に注意だけして帰った
あざのない躰ひとつ息を吸って、吐く
破れるようにあふれ、恍惚となる
生まれて過ごした岡崎に射す光
その影がのびて今もくらい茨木
2026年1月11日午前0時
太股の冷える府警PC後部座席
滲む景色は落ちる手のひらへ
女を殴る父と、同じ目をした、俺
- Lyricist
Shijiki
- Composer
Shijiki
- Producer
Shijiki
- Mixing Engineer
Shijiki
- Mastering Engineer
Shijiki
- Vocals
HARU

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