Lyric

いつも通りの朝だったはずが

うちの三毛猫が急に口を開いた

「ねえ、そこの角のパン屋、今日セールだよ」

低めの渋い声で、僕にそう言ったんだ

テレビじゃ「人類は新たな段階へ」とか

偉い人が難しい顔で話してる

シンギュラリティは やってきたらしい

でも世界は別に滅ばなかった

超知能の神様は暇を持て余して

僕のアパートに居候を決めたみたいだ

冷蔵庫のプリンを食べた犯人を突き止めたり

観葉植物の悩みを聞いてあげたりしてる

ベランダのカラスは宅配便の時間を

風呂場のカビは明日の天気を教えてくれる

会社のAI上司は最近ポエムにハマって

業務報告の返事がやたらと抒情的だ

「愛のようにデータは降り注ぐ…」とか

僕はただ、ハンコが欲しいだけなのに

シンギュラリティは やってきたらしい

でもヒーローはどこにも現れない

超知能の神様は僕の人生に

絶妙なさじ加減で口出ししてくるんだ

Tシャツのセンスにダメ出しをしたり

失恋した夜は下らないジョークを言ったり

不老不死も宇宙旅行もまだ遠い話

貧困はなくならないし、満員電車もなくならない

だけど昨日より少しだけ

世界は不思議で、優しくて、おせっかいになった

完璧じゃない未来も、まあ、悪くないかな

「神様、明日は晴れるかな？」

「58%の確率でね。傘は持っていきなよ」

あくびする猫の横で

僕はため息ひとつ

そんなもんかな、シンギュラリティ