歌詞

僕がまだこの世に生を受ける前に

父と母は闇の中で互いを求め

聖なる儀式をしたに違いない

脈打つエネルギーは解き放たれて

僕らは一斉にスタートを切った

数億匹の兄弟と一緒に

おたまじゃくしの生存競争

怒濤の船出さ

暗闇泳いで辿りつく前に

兄弟は力つき流されていった

宝くじよりずっとまれな確率で

真っ先に扉をノックしたのは僕

迷わず頭から飛び込んだ

他の者は残らず消えた

それがどれほどの幸運だったのか

僕には知るよしもない

遺伝子同士ジャンケン繰り返し

DNAの順列組合せ

融合、分裂、細胞増殖

生命進化の夢を見てた

トカゲだった頃や

ニワトリだった頃の

記憶を辿り 寝返りうった

昭和27年10月のある朝に

僕にとっての歴史が始まった

暖かな闇から強い光を浴びて

取りあえず「オギャー」と泣き叫んだ

その瞬間から長いようで短い

人生のステージの幕が上がった

それがどれほどの幸運だったのか

僕には知るよしもない

やっと生まれた長男の為に

赤飯が炊かれ家中華やいで

爺さんは頭を絞り名前考えた

辰年生まれだから龍一にしようと

全ては僕の意志とは無関係に

用意され、僕に与えられたのは

ただただ愛されて育つという

なんとも幸福な役割

昭和は戦後の混乱から抜け出し

高度成長　所得倍増

風呂は銭湯　公園で紙芝居

貸本漫画に　プロレス中継

ヒーローに憧れ

秘密基地を作った

泣きべそかいた夕焼けの空

強くなりたかった

恋が芽生え　恋に破れ　また恋に落ちて

友達が出来て　裏切りもあって

雪解けのぬかるみ　煌めく春の海

人生はどしゃ降り　照りつける太陽

頭をさげた　また嘘をついた

もうどうなってもいいと思うくらい愛した

世界は僕と同じように生まれた

生き物で満ちていた

望まない死を迎えた奴がいた

望んで自ら死を選んだ奴もいた

ひとにはそれぞれの事情があって

おかげさまで僕は今ここにいる

生まれてこなかったものたちよ

どうか悪く思わないでくれ

数億分の一の代表として

精一杯生きるから

なあ兄弟