Lyric

世間的な評価と違って　私は庵野作品の中では　『カレカノ』が最も琴線に触れた

日常は退屈だ　画一的な学校教育が先鋭化する中学生活に　私は吐き気を催した

両者の隔てる絶対的に区分される光景を提示する試みとして　ジャン＝リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』と　北野武『その男、凶暴につき』　は　法と正義の関係を暴力によって　批判的にフィルムに定着させた

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僕は三十七歳で　そのときボーイング747のシートに座っていた　その巨大な飛行機は　ぶ厚い雨雲を潜り抜けて降下し　ハンブルク空港に着陸しよとしているところだった　十一月の冷ややかな雨が大地を暗く染め　雨合羽を着た整備工たちや　のっぺりとした空港ビルの上に立った旗や　BMWの広告板や　そんな何もかもをフランドル派の陰鬱な絵の背景のように見せていた　やれやれ　またドイツか　と僕は思った

金雄は二十一歳で　そのとき東海道新幹線の座席に座っていた　その高速鉄道は　くしゃみと同じ速度で走行し　東京駅に到着しようとしているところだった　四月の快晴の陽光は　高層ビルを妖しく輝かし　通りすぎるホームの人影や　児童不在のぽっかりと空いた運動場や　「Ｐ」と大書された駐車場の看板や　そんな何もかもを浮世絵のスーパーフラットな絵の背景のように見せていた　やれやれ　また東京か　と金雄は思った

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飛行機が着地すると禁煙のサインが消え　天井のスピーカーから小さな音で　BGMが流れ始めた　それはどこかのオーケストラが甘く演奏するビートルズの『ノルウェイの森』だった　そしてそのメロディはいつものように僕を混乱させた　いや　いつもとは比べものにならないくらい激しく僕を混乱させ揺り動かした

新幹線が終点に近づくとお馴染みの電子音楽が鳴り　アナウンスの流れる中　小さな音のディスクマンの音楽を止めた　それはどこかいかがわしいテクノのトリオユニット　電気グルーヴの演奏する『シャングリラ』だった　そしてその旋律はいつまでも金雄の耳に残った　いや　いつもの比ではないほど　激しく金雄の耳を捉えて離さなかった

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君が正解

僕は間違い

世界を間違いで　バツバツ

引用：村上春樹『ノルウェイの森』上（講談社文庫）