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商業ロックの過剰な音圧や、ピッチ補正による人工的な完璧さを徹底的に焼き尽くした本作は、1990年代初頭のシアトルで産声を上げた初期衝動へのダイレクトな回帰であり、同時に徹底的な「引き算」の試みでもあります。
楽曲の骨組みを成すのは、変則調弦で引きずり下ろされた重厚なギターの低域と、過度な圧縮を免れた生々しい部屋録音のドラムです。ヴァースでは、フェルトマレットで叩かれる柔らかなキックが、2拍遅れて入る重いベースラインと絡み合い、静かな焦燥感を醸成。プリコーラスの緻密な消音奏法を経て、サビに突入した瞬間、一転して開放弦の倍音を含んだ歪みの壁が炸裂し、乾いたスネアが音響の真ん中を劈きます。
歌詞の核にあるのは、ドラマチックな感傷主義を徹底的に拒絶したフラットな現実主義です。10月の濁った川、財布のなかの古びた写真、過去を捨てた女との無意味な会話。理想的な明日への回路を完全に遮断され、未解決のまま続いていく日常の風景。これらを引き受ける独白は、歌い手の息遣いやかすれを一切修正せず、超至近距離の生々しい質感で配置されています。サビでは感情の堰を切ったような咆哮へと登り詰めますが、音圧の暴力ではなく、アナログ特有の有機的な飽和感によってコントロールされています。
特筆すべきは、終盤のブリッジで発動する「リズムの欺瞞」です。伴奏が静まり返るなか、ドラマーが「1拍目を8分音符1つぶん意図的に遅らせて叩く」という修正無しの不穏なタイミングのズレを発生させ、無意識に心地よい時間歪曲の錯覚を植え付けます。最後はスタジオの便利な時間減衰を真っ向から拒絶し、開放弦が引き起こす自然な発振ノイズの途中で、カミソリのようにプツンと音が完全遮断される、引き算の美学の極致を提示する大傑作です。
Negi0723は、感情の揺らぎと都市の空気感を繊細にすくい取るミュージシャン。 エレクトロニックとポップ、オルタナティブの要素を横断しながら、 きらめきとノスタルジー、衝動と内省が共存するサウンドを描き出す。 印象的なメロディと映像的なリリックが特徴で、 一瞬の感情や夜の断片を切り取るような楽曲世界は、 リスナーそれぞれの記憶や物語と静かに共鳴していく。 ジャンルに縛られず、感覚を信じて音を紡ぐ。 Negi0723の音楽は、日常と非日常の境界線をやさしく溶かしていく。