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Lyric

HARD

jirokamei

「若い人のあいだで流行っているんですよ」

話題の新曲か何かを教える様な いかにも 所詮は他人事の心療内科医。

もう 処方箋代わりだ、とイカレた詩を書きたい。

世間など知りようないガキどものデモCDの中にこそ真理を垣間見る。

思慮深いかに見せ掛け、でも俯瞰視点で尻を掻いたりしてるだけ。

“他人事”なのは俺の方。

僅か胸三寸。つい口を突いた愚痴。たった一言。後は止め処も無く溢れ出す。

アルバムで歌う筈だった名フレーズの数々が暮れなずむ町、人の目に触れず消え失せる。

地平線に溶けるノスタルジー。

ある晩 ふと、もしや帰る場所があるから 迷うのか…?

真夜中、布団越しに「チッ、ったく」

時計の舌打ちが、小さくも静寂を切り裂く。

眩暈・頭痛。壁が迫り来る。下手に すぐ寝たいと思うほど眠れない。

ずっと ここじゃないどこか 別世界を願いつつ寝返り打つ。

ネガティヴがへばり付く駄目駄目な自分。

孤独とルームシェアする部屋に住む このシュール=レアリスム。

歳を重ね、時の流れから一人取り残され、

交信の途絶えたパラレルワールドにて唱えるモシモタラレバ。

寒空なのに ぼやける星を眺めた。

田舎町。誰も俺を知らぬ土地。都落ち。

際どい日雇いで食い繋ぐフリーとは縁遠いフリーター。

一体なぜここに?

やせ細り、消費期限の疾うに切れたコンビニ弁当にささくれた割り箸を突き立てる。

通り一遍の人生。

前に足を踏み出せず、脇道をちんたら歩ってる。

こんな日々に意味もちったあ有るって?

「もう生きてくのも正直面倒い」?

なら、いっそ死んだら?

敢えてニコチンタールで可視化する溜息は煙たい。

勘繰り自己嫌悪に陥る。夜な夜な地獄へ落ちる様な倦怠感。

またケータイが唸り出す。

バリ3でも圏外か。

塞ぎ込んで滅入る俺に「返信不要」で結んでるメール。

不在着信 数十件。留守電に吹き込まれた、懐かしい昔馴染みからの安否確認。

己の不甲斐なさに涙ぐみ、

夜半過ぎ、裸足で真冬のベランダへ出たんだ。

汗ばんだ手で欄干を握り締める。

片足を掛け、瞬間、生き死にをギリギリで行き来して、選んだコチラ側。

我ながら何故だか分からないが、落ちなかった。

冷たさがひしひしと身に染みてきて「何してんだ、俺は?」

噛み締める。

例えば、さっき聞いた留守録の寂し気な声。

「なあ、自殺したりしやがったら お前ぶっ殺すからな」

腐り果てた俺が俺の面を張り、揺り起こす体。

さながら粗忽長屋。

そのまま棄てた精神安定剤。

結局、自分より手強い敵なんていない。

数カ月後。連絡受け 新幹線に飛び乗ってすぐ駆けつけるも、

末期癌、ターミナルケア。

骨と皮になっちまったばあちゃん。

棒立ちで無言の俺に、ふっと微笑み。

「あら痩せた?ちゃんと食べてる?」ってギャグかよ?

逆だろうが。笑いながら泣けてくる。

「久しぶり。あんたにもう会えんと思ってたら最後、お陰さんでまた会えたわぁ。

癌細胞に感謝せにゃならんね...」

あれから間もなく ばあちゃんは息を引き取ったけれど、

今でも、片時も休まないで常に俺を目覚ましめてくれてる。

「RIP」?「安らかに眠れ」?

テンプレで曖昧にはぐらかさないでくれ。

淀んだこの泥沼には大輪の蓮が咲いてるぜ。

まずは最低限、外さない大前提。

独りじゃないぞ俺は。

“I was born”故に、愛はずっと胸に。

このために生まれてきたと思えたりする、

そんな一瞬と一生分の苦痛とが相殺するのさ。

不義理はたらき、裏切り 飛んだ、こんな とんだ糞野郎の傍らに、

嘘だろ?ってくらいあたたかい仲間が居て。

HakobuNeに かまとろ、タケやん、てるみーわいず、Meg、スカルベリンジャー…

出会ってきた全員が浮かんでいった。

クラウドなど要らない、瞼の裏で足りる。

毎晩、小宇宙のプラネタリウム。

本来勝ち負けの無い存在価値までをも、しょっちゅう比べたりするのは一体何故だろう?

“What do you mean?”は、どういう意味ですか?という風に哲学したい生まれた理由。

この上ネタに 左胸のビートを打ち込んでいく。

録り直しの効かない1verse、一度切りのテイク。

世話になったお前らに 何ら返せないまんま終われない。

遅まきながら約束果たす。

与えられてきたものにまったく過不足は無く、

消してしまいたかった過去の何もかもが、決して無駄ではないのかもな。

掛けた情は水に流し、受けた恩は石に刻む。

ヘイターをも愛す生き様。

何時からか上ばかり馬鹿みたいに探してた美しさ。

いくら探せど見付からなくて、傷だらけになって、

「こんな筈じゃなかった…」と俯いたその時、ようやく分かったよ。

自らの足元にこそ音楽があったのだと。

“コンシャスなラッパー”になど なれなくても最先端。

枝先に揺れる言葉の葉脈は真っ赤っ赤。

本当の意味で 己を愛せるか。この一点。

どうのこうの言っても伸るか反るかは不確実だ。

深く沈んだ分だけ強力なバネへ。

今日もくたばっては また明日、新たに生まれ変わるまでさ。

未来へ移り行く歳月。愛別離苦。

たった一節たりとも雑に扱ったりせずに、

大切なものを肩に全部載せていく“セルフボースティング”

Repする両親の両親のそのまた両親。ダチのダチのダチ。

君の気に食わない元カレに至るまで皮肉にも俺の一部、という純然たる事実。

俺の道、お前の道、あいつらの道も“無難”じゃあないぜ。

日本語に訳せ HARD

“感謝率異常”なJapanese HipHop

代わり映えがしない日々は、どうやら「奇跡」なんて表現じゃ足りないらしいな。

盲亀浮木。この出会いと別れを当たり前でないと分かり合えたなら もうきっと、

世界は変わるだろう。

束の間の仮宿。

波間の足跡。

旅立ちの日、車窓を後方へと飛んでいった街や、

今日も俺を俺たらしめる共演者達へ どうも有り難う。

「めでたし」の続きをこの目で確かめよう。

先など まるで見えぬ曲がり角。

やり場の無い感情を書き足そう。吐き出そう。

まるで針が飛んだvinylの様に繰り返す、

有り難うな。

  • Lyricist

    jirokamei

  • Composer

    jirokamei

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Artist Profile

  • jirokamei

    次郎(仮名) 1987年生まれ。2008~2012年頃まで活動、J-HIPHOPのアンダーグラウンドシーンで注目を集めていたが突如として消息を絶つ。 その後、2018年に盟友・HakobuNeのミックステープ『kimama』へ参加し復活を遂げる。 2022年10月、6曲入りのEP『再生』をリリース。

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