もうどれほど来ただろうか。肌足を柔らかな植物に包まれながら、緩やかな長い上り坂を上ると、地平線から明かりが灯り始めた。光は丘の木を照らし出し、僕らを照らし出し、足元から風に乗って宙を舞う青い花びらを照らし出した。闇には憶えない幻想だ。呼吸も忘れるほどに、痛みも忘れるほどに、失った時間を取り戻すように、その景色に僕らは見惚れていた。これこそが僕らが探していた、夢に見ていた幻想か。こんなにも綺麗な、まだ誰も想像すらしたことのない景色が他にあるなら、次はどこを目指そうか。知らない何かを探し続ける、終わらない旅の予感がする。
ふと瞬く間に、力の抜けた体を風がゆったりと倒した。柔らかな地に寝そべって、夜空と朝焼けの境界を仰ぐ。夏の冷やかな朝風が吹いて、無数の青い花びらを宙へ運んでいく。君は眠いくらいに薄く目を開けて、それを見ながら「星みたいだね」と呟く。花弁についた水滴が朝日を含んで夜空の星みたいに光っている。僕らは何だか世界の秘密を知ったみたいな気分だった。
太陽が顔を出して風が止む。花弁は宙に留まる。すると、気づかないくらいのスピードでそれらは落ちてくる。ゆっくりと、ゆっくりと、降り頻る雪のように。僕らに一枚、また一枚降り積もっていく。僕は起き上がって、手のひらで花の雨を溜め込んで、君に
「見てレイラ!こんなにたくさん」
君はもう目を閉じて眠っていた。痛みも苦しみも残さずに。
彼女を包み込むそれは、まるで花束のようだ。
幸福を告げる青い花束。
- Lyricist
Sou Nekogi
- Composer
Sou Nekogi
Listen to Reading - Dawn by Nekogi Bunko
Streaming / Download
- 1
Reading - Declining
Nekogi Bunko
- 2
Inhuman
Nekogi Bunko
- 3
Blue star
Nekogi Bunko
- 4
Nice moon
Nekogi Bunko
- ⚫︎
Reading - Dawn
Nekogi Bunko
- 6
Walking alone
Nekogi Bunko
Artist Profile
Nekogi Bunko
京都の5人組ロックバンド。アルバムを一冊の文庫本と見做し、それを映画化するように音楽を奏でる。 脚本は主宰である猫木蒼により構築される。物語の断片がそれぞれの楽曲に宿され、その詩が彩花の透き通るボーカルで歌い上げられる。 第一作目となる「レディメイドに花束を」は、小説仕立ての朗読2編と特色ある4曲で構成されている。ダークでジャジーな「人紛い」疾走感満ちるロックチューン「ブルースター」スイングする煌びやかな「宵月」エピローグを飾る「神様がいなくても」。一貫していながらもジャンルを跨ぐ楽曲たちにより、何度でも聴けるストーリーアルバムとなっている。 Vocal 彩花/Guitar, Composer 猫木蒼/Piano 久郷晴香/Drumもちお/Bass, Sound Engineer ババキャン
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