千年後の僕らものジャケット写真

歌詞

キリグモ

ユキニフル

遠くで木々が擦れる音。気配。それも複数。

甲高い鳴き声。というより叫び声。獣のものではない。これは……。

キリグモ。

物語に飢え、群れをなし、霧のように雲のように曖昧に生き延びている彼らは、そう呼ばれている。

何よりも、捜索隊にとって最も恐るべき存在だと伝えられてきた。

まずい。

服を纏って、荷物を背負い、火を消す。鳴き声が近づいてくる。

彼らとコミュニケーションをとることはできない。

この見捨てられた土地で生きる彼らの脳は退化している。その分、生きるために必要なエネルギーは少なくて済むのだと、ノラエが教えてくれた。

彼らは、旅人やわたしたち捜索隊を襲う。目的は物語だ。

キリグモは物語を探すことはできないくせに、それを求めようとする。

これまでに、何人もの捜索隊が命まで奪われている。

うかつだった。

メロディを口ずさむことがどれだけ危険かなんてわかっていたのに。

駆け出しながら、通信を開く。

ノラエはずっと遠くにいる。助けは求められない。

それでも、少しでいいから、安心したかった。

「ノラエ、聞こえる?」

雨は降っていないけれど、林の中だ。届くだろうか。

「ミゾハ」

「ノラエ、よかった。いまわたしの近くに……」

「キリグモかい?」

早すぎる返事。

「え……なんで」

「ぼくも同じだからさ。もう、キリグモに囲まれている」

ノラエは何を言っているの?

わたしはそんなセリフを吐くようには頼んでいないはずなのに。

「いや……そんな言葉聞きたくない!」

「ぼくが死んでも、ミゾハは、ひとりじゃない」

「嘘! だってわたしは……」

ノラエの言葉が、わたしの記憶と結びつく。わたしの、一番悲しい記憶。

「ぼくの旅は、ここで終わりなんだ」

ノラエの声が途切れる。

もう一度通信を開こうとする。発信中の音色が鳴り続ける。

走り続けてきたわたしの脚も、呼吸も、限界に達していた。

立ち止まった。

それに呼応するかのように、キリグモたちも、ゆっくりとした歩行に切り替えて、わたしを取り囲んだ。

暗闇に慣れた目に、キリグモの姿が映る。

腰は曲がり、背は低い。ただ、髪は下半身に達するまで伸びている。

威嚇をするかのようにずっと開いている口からは唾液が垂れている。

何より目立つのは闇に光る眼が、赤く充血していることだった。

四、いや五体。

頬に水滴がぶつかる。また、雨が降り始めた。

ここで終わりなんだ。ノラエの最後の言葉を、心のなかでつぶやいた。

キリグモの一体が、わたしに飛びかかった。

  • 作詞

    宏川 露之

  • 作曲

    ein himinn

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あなたにとっては、ずっと遠い未来の彼方。草木はビルの壁を覆い、都市の骨組みは朽ち果てて、風は絶え間ない悲嘆を繰り返していた
雨の強い日には、街路は水しぶきを上げ、この街に、この世界にあったはずの物語の足跡を洗い流そうとしていた──。

終わりを迎えた世界で旅を続ける少女、ミゾハ。はるか昔に世界から失われた「物語」を探す捜索隊の一員として、同じ捜索隊の少年ノラエと、互いに通信機で励まし合いながら目的地を目指していた。彼らが旅の最後に見つける答えとは……。

全編を通じて朗読と音楽により物語世界が繰り広げられる、ユキニフル初の朗読音楽劇。

アーティスト情報

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