容赦ない雨。
濡れたわたしの全身に、それでもまだ叩きつけるように降り注いでいる。
身体中が痛む。なんとか目を開く。視界からは、たいした情報は得られなかった。
数時間前と変わらない景色から、まだわたしは生きている、ということだけはわかった。
服は捨て置かれていた。どうにか身体を起こして、身に纏う。
キリグモには、ほとんどの荷物を持っていかれていた。通信機も奪われていた。
涙は出なかった。
でも、泣いてしまったほうが、楽だったかもしれない。
わたしが生き延びたのは、通信機のおかげだろうか。
発信中の音色が、キリグモの興味を引いたんだろう。
あの音色……。
だめだ。思い出せない。
あんなに何度も聴いた音なのにどうしても思い出せない。
──ぼくの旅は、ここで終わりなんだ。
その言葉が頭の中を繰り返し巡った。
「ノラエ……」
わたしの旅は、まだ終わるわけにはいかない。
立ち上がって、濡れた服に袖を通し、裸足のまま靴を履く。
全身の不快感だけが、わたしのそばにあった。
靴に染み込んだ雨水を、かかとが押し出すのを感じながら、わたしは一歩を踏み出した。
数時間、土の上を歩き続けた。明け始めた空。
少しずつ下っていく道の先に、新しい景色が広がる。
背の高い建物があった。塔のように見える。
てっぺんの数字のマークは、ノラエから聞いたことがある。
ずっと昔には、どんなものでも揃っていて、溢れるように人が出入りしていた、ショッピングモールという施設。
いつか一緒に行ってみたいと、ノラエはわたしに言ってくれた。
一日中探索してもし尽くせないらしいよと、楽しそうに語るノラエを思い出す。
少しだけ、進む力が湧いてきた。
- 作詞
宏川 露之
- 作曲
ein himinn
ユキニフル の“旅の途中”を
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ストリーミング / ダウンロード
- 1
水没都市
ユキニフル
- 2
ノラエのテーマ
ユキニフル
- 3
ボートに乗って
ユキニフル
- 4
夜、焚き火のそば
ユキニフル
- 5
キリグモ
ユキニフル
- ⚫︎
旅の途中
ユキニフル
- 7
初めてのショッピングモール
ユキニフル
- 8
海辺の施設
ユキニフル
- 9
探していたもの
ユキニフル
- 10
ミゾハのテーマ
ユキニフル
- 11
千年後の僕らも
ユキニフル
あなたにとっては、ずっと遠い未来の彼方。草木はビルの壁を覆い、都市の骨組みは朽ち果てて、風は絶え間ない悲嘆を繰り返していた
雨の強い日には、街路は水しぶきを上げ、この街に、この世界にあったはずの物語の足跡を洗い流そうとしていた──。
終わりを迎えた世界で旅を続ける少女、ミゾハ。はるか昔に世界から失われた「物語」を探す捜索隊の一員として、同じ捜索隊の少年ノラエと、互いに通信機で励まし合いながら目的地を目指していた。彼らが旅の最後に見つける答えとは……。
全編を通じて朗読と音楽により物語世界が繰り広げられる、ユキニフル初の朗読音楽劇。
アーティスト情報
ユキニフル
物語と音楽をコンセプトにしたユニット。 冷たさや儚さで覆われた世界を「雪」に例え、そこに降り積もる"何か"をモチーフに名付けられたこのユニットは、故郷と居場所、後悔と喪失、それでも生き続けるということをテーマに独自の世界観を表現する。 小説とCDが同封される作品は、痛々しくも確かな手触りをもって描かれることで、フィクションであると同時に現実とも通底する圧倒的な詩世界を浮かび上がらせる。
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