

去年の夏、友川カズキのライブを観に帰郷した。
明治15年の観測開始史上、過去に例の無い豪雨。
叩きつけるような雨と警報。
鳴り響く町の危機放送。
至る所の川が氾濫。
部落外れの川が、墓所(はかしょ)まで覆いそうなほど。
色んな予定を中止せざるを得なかったが、友川カズキはライブを断固決行。
幼い頃からよく通っていた、懐かしい温泉施設・ゆめろん。
日本の干拓における大失敗、八郎潟の残存湖が左に。
豪雨の中、釣りに興じる人間は無論全くいない。
地元の爺さん・婆さんが集まるような畳の宴会場。カラオケ大会のようなステージ。
歌う友川カズキ。
演奏よりも、一番印象に残っているのはMC。読んだ本の話をしていた。
作中の婆さんが凄いセリフを言っていたと。
『生きてるうちは死にたく無い』と。
友川氏は感歎した様子で何度も次のように言っていた。
「生きてるうちは死にたくない・・なんて凄い言葉だ!私はこの言葉が衝撃で。生きてるうちは死にたくない、ですよ!いやー、凄い言葉で。」
いつものように強い訛りで、感情のままに語っていた。
ライブの曲や演奏はそこまで強く印象に残っておらず、兎に角その言葉が私の頭の中に残り続けて。張り付いてて。
次の日、実家の部屋で21歳の時に初めて買ったフェンダージャパンのサンバーストのアコギを弾いて、頭の中に浮かんで来たリフを形にした。
以前として豪雨は続いている。
居間のテレビに噛り付く父。五城目が大変な事になっているみたいだ。
一緒に帰った漫画家の友だちが、台所でiPadを広げ絵を描いている。
きっと彼も、一人ぼっちだから絵描きになったのだろう。
声に出さずそんな事を考える。
おもむろに裏の倉庫へゆく。
ボロボロのトタン屋根を雨が襲っている。
今日は窓からごみ処理場もよく見えない。
何処へも出かけられないから、僕は倉庫の米袋を眺めながら絵を描き始めた。
妹が昔授業で使っていた水彩絵具を持って。
季節外れの除雪ダンプが、端っこの方で赤く光っている。
干してある軍手が、隙間風でちょっとだけ揺れている。
農協の新品のタオルが、机の上に雑然と置かれている。
『友川カズキを聴きにゆく』という曲が出来た。
何にも無い一日と言うのも、良いもんだと思う。
- 作詞者
鈴木 諭
- 作曲者
鈴木 諭
- ミキシングエンジニア
鈴木 諭
- マスタリングエンジニア
鈴木 諭
- ギター
鈴木 諭
- ボーカル
鈴木 諭

鈴木 諭 の“朗読・帰郷 (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)”を
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夏の風はいつも苦しい (Live at 工房ムジカ 2024.07.20)
鈴木 諭
2024年7月20日に工房ムジカにて行った、初・独演会『27年前の私に送る秋田の詩たち。』の模様を全編音源化。当日は酷い雷雨。演出かのように入り込む雨と雷の音。ライブの内容も圧巻。
店主・葛原りょう氏はライブ後に、以下のように書き残している。
「こんなに全身血の気の全力で引くライブは初めてだ。
圧倒的な虚無感。語りの冴えが痛ましく、リアルの極み。
月曜日の雪。犬の川。亀の串刺し、ばあちゃんの遺影。
上田病院。アトピーの歌。怒涛のギターの畳みかけ。
言い尽くせぬライブだった。
たしかに梅雨明けの日暮里は雪国だった。」
筆舌に尽くしきれぬ地獄の世界、心して体感して貰いたい。
いざ、地獄の世界へ。
アーティスト情報
鈴木 諭
地獄の詩世界と秋田弁ブルースを唄う、ただの秋田県人。じゅんさい王国(旧・山本町)出身。2023年頭より弾き語りを本格始動し、代表曲である『犬の川』はライブ演奏を通し多数の人間から「これは犬の楢山節考だ」などと激賞を得た。また秋田弁ブルースは「何を言ってるか全く分からないけど面白い」等の声を集め、ライブの重要要素の一つとなっている。
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